海のレシピ project

Iwaki

海と食卓の上を泳ぐ、大衆魚のサンマ

[福島県 いわき市]

2021.10.08 UP

日本を代表する映画監督、小津安二郎。『晩春』、『東京物語』などと並び代表作とされる作品に、『秋刀魚の味』がある。小津映画らしい、どこにでもいるような家族の物語。父が娘の結婚を心配するのも定番のテーマだ。しかしこの映画、タイトルに “ 秋刀魚 ” とあるにもかかわらずサンマが一切出てこない。構図の細部にまでこだわり抜く小津が、なぜこのようなタイトルをつけたのだろう。日本とサンマの関係を改めて考えてみることにした。

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サンマの泳ぎ方、横から見るか、上から見るか。

山内信弥さん(アクアマリンふくしま飼育員)

こんがりと焼かれて横たわったサンマを想像するだけで、お腹がグウと鳴ってしまう。しかし私たちは、生きたサンマがどのように泳ぐのかなど、サンマの生態をほとんど知らない。福島県の「アクアマリンふくしま」は、サンマを飼育する世界唯一の水族館だ。1997年からサンマの飼育研究に携わっている、アクアマリンふくしま繁殖育成課の山内信弥さんにサンマの生態について話を聞いた。私たちもサンマを飼うことはできるのだろうか?

2000年、福島県いわき市に環境水族館としてオープンしたアクアマリンふくしま。この水族館が位置するいわき市小名浜の海は、親潮と黒潮がぶつかり潮目ができる場所だ。日本列島を南北に回遊するサンマだが、太平洋側では潮目となる小名浜で、夏の終わりから秋にかけて水揚げされる。地元に密着した魚として水族館で展示することが決まったのが、1997年ごろのことだった。

しかしサンマは水族館などで展示された前例がない。稚魚を育てる中で、山内さんの前任者たちはその理由を実感していくことになった。高知のサンマ漁船に同乗し、サンマの稚魚をもらい受け、20〜30尾ほどの稚魚を空輸で連れ帰ったが、生きていたのは12尾。それを育てようとするも壁が立ちふさがった。

「サンマはすごく神経質なんです。網ですくっただけでパニックになり、水槽の中で暴れてしまったり、それによって死んでしまうこともあるほどなんですよね。しかも鱗が剥げやすい。暴れると鱗が剥げて皮膚が傷つき、数日で死んでしまうんです。非常に扱いが難しい魚なんですよね」
12尾のうちさらに残った8尾をしばらく水槽で飼育していたところ、産卵に成功。その卵を慎重に孵化させ、育て始めた。現在は300尾ほどを展示しながら、予備水槽で約2000尾のサンマを育成している。

山内さんがサンマの飼育担当になって驚いたことのひとつに、泳ぐ姿があるという。
「サンマは蛇みたいにくねるように泳ぎます。小さい段階ほどそれが顕著にわかりますね。アジやサバに比べて細長いので、脊椎骨数が多いようなんです。それに上から見ると、青黒いぐらいの真っ青な背中をしてるんですよ。みなさんは横から見ることが多いと思いますが、私たちは水槽の上から見るのでその色味に驚きました。下から見ると銀色なので、太陽光の反射で見えにくくなる。上から見ると海水に紛れる。カモフラージュのためなのだと思います」

近年、サンマの不漁が毎年のニュースになっている。
「温暖化で日本沿岸の水温が高くなり、サンマが日本沿岸に近づかなくなっているのではと考えられます。サンマの全体数が減っているのではなく、もっと沖合にいたり遠くで回遊しているんでしょうね。私たちも今後、水族館での飼育研究結果を外部の研究機関と共有し、社会貢献のために活用できたらと考えています。サンマは食材でもありますが、こうして海を泳いでいる魚です。命をいただいて私たちは生きているということを、メッセージとして伝えていきたいですね」

お話を伺ったひと:
山内信弥(アクアマリンふくしま飼育員)
東海大学海洋学部水産学科卒業。1998年にアクアマリンふくしまに入社。入社以来、20年以上サンマの飼育に携わっている。現在はサンマの展示も含めた「ふくしまの海〜大陸棚への道〜」エリアを担当し、水中ドローンを用いたシーラカンス調査やラブカ調査などにも従事している。

インフォメーション

環境水族館アクアマリンふくしま
https://www.aquamarine.or.jp
〒971-8101 福島県いわき市小名浜字辰巳町50