海と食卓の上を泳ぐ、大衆魚のサンマ
[福島県 いわき市]
2021.10.08 UP
日本を代表する映画監督、小津安二郎。『晩春』、『東京物語』などと並び代表作とされる作品に、『秋刀魚の味』がある。小津映画らしい、どこにでもいるような家族の物語。父が娘の結婚を心配するのも定番のテーマだ。しかしこの映画、タイトルに “ 秋刀魚 ” とあるにもかかわらずサンマが一切出てこない。構図の細部にまでこだわり抜く小津が、なぜこのようなタイトルをつけたのだろう。日本とサンマの関係を改めて考えてみることにした。
レシピ
秋が来ると誰もがサンマの味を思い浮かべ、買い求める。この季節の代名詞ともいえる食材だが、塩焼きや刺し身以外にもおいしく食べられる調理法がある。料理家の大黒谷寿恵さんが提案してくれたメニューは、こちらも秋の食材である葡萄(デラウェア)とサンマを合わせた春巻き。サンマと葡萄の組み合わせから、いったいどんな風味が生まれるのだろうか。
あらかじめサンマの鱗を包丁などで取り除き、頭を落として三枚におろす。大黒谷さんは、三枚におろす大名おろしにした。肝の白い脂を取り除いたら、熱湯で茹でてしっかり火を通す。少量なので茶こしとスプーンなどで簡単に裏ごしできる。サンマの身は包丁の背で皮を削ぎ落とし、そのまま包丁で刻みミンチにしていく。
葡萄は小さい粒のデラウェアを使ったが、もちろん他の種類でも OK。巨峰など大きい粒の場合は、小さくカットして使おう。ボウルに葡萄以外の材料を混ぜ合わせたら、それを4等分しておく。魚は火を通し過ぎるとパサつく。そのため生クリームも入れるのがポイントだ。春巻きの皮に材料を細長く置き、葡萄を 10 個乗せていく。スティック状に細く巻いたら、両端を水溶き小麦粉で閉じる。キャンディ状に巻いても可愛い。
揚げ油はサラダ油でもいいが、オリーブオイルやグレープシードオイルを使うとより洋風に。春巻の端を箸で持ち上げて、箸先に沸々としている振動を感じたら(およそ2分)取り出そう。皮をさくっと仕上げるために二度揚げするのもポイントだ。皿に盛り付けて、最後に黒胡椒をひいたら完成。サンマ以外にも、サバやツナ缶などで応用できる。ツナ缶を使う場合は油を取り除く。
サンマと葡萄。驚きの風味が秋の風を運んできてくれる。
材料 4本分
秋刀魚 1尾/生クリーム 大さじ1/葡萄(デラウェア) 約40粒/マスタード 小さじ1/レモン 1/4個分/春巻きの皮 4枚/塩、黒胡椒 適量/水溶き薄力粉 適量/揚げ油 適量
作り方
1) 秋刀魚は3枚に卸し、腹骨を取り除いて包丁で良く叩いてミンチ状にする。肝は熱湯で茹でて裏ごす。
2) デラウェアは皮を剥いておく。
3) ボウルに1)を入れてレモンの果汁と皮を削ったものを加えてよく混ぜ、塩・黒胡椒、生クリーム、マスタードも加えてよく混ぜ合わせる。
4) 春巻きの皮に4等分した3)をのせて、2)のデラウェアを上から並べて細く巻き、水溶き薄力粉で留める。
5) 160℃に温めた揚げ油に入れて2分ほど、皮が薄く狐色になったら一度取り出す。温度を 180℃に上げて再び入れて1分ほど、皮が濃い狐色になりパリッとなったら油を切って器に盛る。
料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年 kurkku cafe のディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ / 和マリネ』(エイ出版)がある。
写真:高村瑞穂