初物カツオ、男の“粋き”ざま
[高知県 須崎市]
2021.10.01 UP
料理をする文豪の表現力は、読む人の空腹感を一気に呼び起こす。料理名人の文豪としても知られる檀一雄は、料理エッセイ『壇流クッキング』で自らの初鰹への好奇心を江戸っ子の初物好きになぞらえた。粋な江戸っ子たちがこぞって求めた初鰹。土佐のカツオ漁師たちに愛される戻り鰹。日本と関わりの深い魚“カツオ”を、今こそ味わい尽くしたい。
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高知県南部の中央に位置する須崎市は、特別天然記念物のニホンカワウソが生息した痕跡が残る新荘川が流れ、海岸には複雑な入り江が連なる。農業と漁業、さらには港を活かしセメント業などの工業も盛んだ。土佐湾の中にある小湾のひとつである野見湾は、カンパチの養殖発祥の地と言われるほか、高知の名産であるカツオ漁も行われるエリア。黒潮の流れを受け暖かな海水が流れ込む土佐湾では、多種多様の海産物が獲れる。カツオ漁や漁業への取り組みについて、須崎市役所の有澤聡明さん、野見漁業協同組合 組合長の西山慶さん。そして中土佐町久礼地区のカツオ漁師、西村敏宏さんに話を聞いた。
「野見湾ではカンパチ、タイ、シマアジの養殖が盛ん。カツオ漁の餌であるイワシもいますね。クジラやジンベエザメ、イルカもいますよ。野見漁港とカツオ船の関わりは昔から深いですね」と語るのは、野見漁協協同組合で組合長を務める西山さん。その西山さんと同世代の西村さんは、父も現役のカツオ漁師というカツオのプロ。土佐では主流となる一本釣りを行っている。
カツオ漁師の西村さんの一日の流れはどのようなものなのだろうか。
「漁の前夜に出発し、どこかの港で餌のイワシを積みます。昨日は愛媛県愛南町でイワシを積みました。そこから12時間ほどかけて漁場に行き、朝4時ごろから昼ぐらいまで漁をします。終わったら夕方から夜の間にどこかの港に戻るという流れですね。1ヶ月ほど漁に行きっぱなしの大型船もありますが、うちは14トンの小型船なので毎日港に戻ります。船員は7人。一人が餌を撒き、近寄ってきたカツオを6人で一本釣りします」
西山さん、西村さんたち漁師は今、海に大きな変化を感じている。
「去年までは釣れても1〜2トンだったんですが、今年は毎日5トンは釣れる。異変を感じています。カツオは22度ぐらいの水温を一番好むんですが、去年も同じぐらいの水温だったのに今年は全国的に爆釣なんです」(西村さん)
「漁師たちが言うには、『カツオはおるけど他の魚がおらん』と」(西山さん)
「カツオ以外の魚が遅れていますね。カツオのシンコ(生まれて1年以内の稚魚)も、小さいのは8月ぐらいに獲れるはずなんですけど、今年はまだ釣れていないですから」(西村さん)
海という職場は危険と常に隣り合わせだ。2011年の東日本大震災の際は、遠く離れた土佐湾にも津波が押し寄せ、西山さんたちは一晩中、養殖用生け簀が流れないよう引っ張り続けた。「あのときは死を覚悟しました。とにかく逃げよう、生きていればなんとかなるからということも学びましたね」
それでも、「海は最高の遊び場」だと西村さんは言う。「海は人生」と断言するのは西山さんだ。そして有澤さんは、現在関わる“海のまちプロジェクト”を通して、「みんなが海を楽しめるようにしたい」と意気込む。海と並んで暮らす人たちの言葉には、希望が輝いていた。
インフォメーション
●高知かわうそ市場
漁師の減少、さらには新型コロナウイルスの影響で観光客も減るなど、いくつもの壁が立ちふさがり続ける須崎市。しかし有澤さんらのアイデアで、2020年に産直品を販売するオンラインサイト「高知かわうそ市場」がスタートした。コロナ禍で使わなくなった市のマスコットキャラクターしんじょうくんの遠征費をサイト運営にあて、飲食店の休業により行き場を失った養殖カンパチ20万匹を販売するのに成功。全国から注目を集めた。
https://kochi-kawauso.com
●須崎市海のまちプロジェクト
https://www.city.susaki.lg.jp/download/?t=LD&id=4020&fid=18250