恵みを与えてくれる海
[ハワイ]
2022.08.09 UP
ハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」の日本人初クルーとして航海に参加している内野加奈子さん。ひとたび航海に出れば、長い期間、海の上で星や風など自然のサインを観察し、役割を果たしながら船の上で生活する毎日だ。ハワイ大学でサンゴの研究にも携わった内野さんに、著書の絵本のこと、海の上での経験や今後の挑戦について伺った。
ものがたり
ハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」のクルーとして、多くの航海に参加している内野加奈子さんは、自然を学ぶ場づくりにも携わり、絵本を通して、海から広がる世界を伝えている。『サンゴの海のひみつ』では、南の島に住んでいるナナが大切にしているサンゴとその生態、そして海の生きものたちとのつながりに触れていく。
内野さんは、海中のサンゴが陸上の森の中における木のような存在であり、海の生物にとっての根幹となって環境そのものをつくっていると知り、ハワイ大学でサンゴの研究にも携わった。
絵本の中のナナは考える。
「サンゴって、いったい何だろう?
岩?植物?
まさか、動物じゃないよね?」
すると、サンゴたちは、大きな岩みたいに見えるサンゴの家に集まって暮らしている動物なのだと答えてくれる。
その会話に加わって、藻(も)が自分の役割をナナに伝える。
「サンゴは毎日、ぼくたちが太陽のエネルギーでつくるごはんを食べてるんだ」
サンゴは、褐虫藻(かっちゅうそう)とよばれる単細胞藻類と共生することで存在を維持している。褐虫藻はサンゴの成長に必要な酸素や栄養分をサンゴへ供給し、光合成に必要な窒素やリンなどをサンゴからもらっているのだ。
ところが、近年の気候変動に伴う海水温の上昇により、褐虫藻がサンゴから放出され、サンゴの白化現象が起こっている。そのまま褐虫藻が戻ってこないと、やがてサンゴは死んでしまう。
物語では、「嵐が海をかきまぜて」海の水が冷たくなり、サンゴに藻がもどってきて読者を安心させてくれる。
「サンゴはすごいな。小さな生きものの家になったり、わたしたちの島を守ってくれたり、たくさんのいのちを育ててる」
内野さんは、絵本の巻末にサンゴについて詳しい解説を付けた上で、私たちにできることを暮らしの中で考えてみようと呼びかける。
「この絵本を手に取ることで、目にする自然の向こうにもっと世界が広がっているということを知るきっかけになってほしいです。表紙に描かれている、手のひらにのせたサンゴのかけら。サンゴのある海に行けば、だれでもこのかけらを拾うことができるけれど、それをただの石だと思う人もいれば、このポツポツの一つ一つにサンゴが宿っていたんだということに思いをはせることもできます。この絵本が、自然のもっているおもしろさに触れるとびらになったらうれしい」(内野さん)
ものがたり情報
(左)
『サンゴの海のひみつ』(きみどり工房)
文:内野加奈子 絵:山崎由起子
出版年:2018年
(右)
『星と海と旅するカヌー』(きみどり工房)
文:内野加奈子 絵:山崎由起子
出版年:2017年
自然が教えてくれるヒントを読み解きながら、遠くの島を目指す伝統航海。星空の海や嵐の海など、カヌーの旅の驚きに満ちた情景が広がる絵本。
写真:高村瑞穂