海苔には旬がある
[福岡県 柳川市]
2022.05.07 UP
和食が好きな人にとって、海苔とごはんは最高の組み合わせ。ほかほかの温かいごはんもおいしいけれど、冷めたときに味がなじんでさらにおいしくなるのが海苔弁だ。食をテーマにした平松洋子の80以上ものエッセイを収録した単行本のタイトルが『ひさしぶりの海苔弁』であることからも、海苔弁の奥深さがうかがえる。そもそも海苔はどのようにしてできるのか、おいしい海苔ができる様子を知りたくて、海苔養殖の主要産地、有明海に向かった。
ものがたり
『ひさしぶりの海苔弁』は、食文化や暮らしのエッセイで定評のある平松洋子が週刊誌に連載していたコラムを1冊にまとめたもの。「ひさしぶりの海苔弁」、「アタマのいい鴨はうまい」、「二十五年めのハンバーグ」という3章に、食の歳時記が展開する。軽妙な語り口が心地よく、食欲がそそられるとともに、本書に登場する地域の特産物やメニューが気になり、そのお店を訪ねようと思ったりと、読み進めるほどに、どんどん興味が広がる。それぞれのテーマを的確にとらえた安西水丸によるイラストがエッセイの魅力をさらに引き立てている。
本書のタイトルにもなっている『ひさしぶりの海苔弁』は、編集者に教えてもらった「海苔弁」を東京駅で購入し、新幹線で食べる様子を描写。
<下三分の二まっ黒。ごはんとおぼしきスペースに海苔がぺったり貼り重ねてある。斜め上に鎮座する焼き鮭はたっぷりと大きく、見るからにふっくら・・・>
海苔弁は、家庭の味からテイクアウトの弁当となり、最近は海苔弁に特化した専門店もあり、平松さんのいう<贅沢版>が人気を集めている。
平松さんは、贅沢版の海苔弁を満喫したあと、<想いがつのって正調海苔弁(しかも海苔、二段重ね)をつくった。二日続けて。>
そして、はじめて海苔弁を食べたときのことを思い出す。
あとがきには、南伸坊が語った思い出を伝えながら、<ひさしぶりの海苔弁を食べていると、自分の記憶に向かい合う感じがうっすらある>という。
食は記憶をよみがえらせる。だからこそ、食が心を豊かにするのだろう。
ものがたり情報
『ひさしぶりの海苔弁』(文藝春秋)
出版年:2013年
写真:高村瑞穂