アイゴの可能性を探す旅
[大分県 津久見市/佐伯市]
2022.08.10 UP
背びれや腹びれに毒の棘を持ち、独特の臭みがあるとして市場で値がつかない「未利用魚」に分類されるアイゴ。海藻を食べる魚であることから、著しく海藻が減少する「磯焼け」(海水温の上昇により拡大)の原因のひとつとも言われている。磯焼けが起これば海藻を採る漁業ができなくなるほか、磯の生物がいなくなり、魚が産卵する場所がなくなり、いままで食べていた魚が食べられなくなってしまう可能性も出てきてしまう。海のレシピプロジェクトはこのアイゴを「食べること」で海の未来に関わるきっかけが作れないかと、2022年8月「#アイゴプロジェクト」を始動した。
ものがたり
よくある図鑑と言えば、対象物の特徴を図や写真、文章で詳細に記したものだが、この『さかな博学ユーモア事典』は図鑑ではなく、事典。ちょっと違う。
日本人になじみの深い約80種類の魚介類を、農林水産省(旧農林省)や全国釣船業協同組合連合会、全国遊漁船業協会などで魚に関わる仕事をしてきた作者が、古くからの文献に基づいて「さかなの雑学」として紹介しているものだ。
『日本書紀』や、『本朝食艦』『大和本草』『和漢三才図会』など数々の歴史ある書物からの引用や、魚にまつわる各地域の伝説、さらに高浜虚子や小林一茶、松尾芭蕉ら俳人が、魚を題材にした句まで紹介されている。
まず、1項目目に紹介されているのは「アイゴ」だ。
「名の由来は、植物のイラクサにある。その棘に触れると肌をさすが、この植物を『アイ(藍)』という。『ゴ』は魚の意である。そこから『アイゴ』になったという」(P14より)
アイゴが背びれ、腹びれ、尻びれに毒の棘を持つ魚であることから、同じ棘のある植物の「イラクサ」にたとえられてその名前が付いたそう。
また、「アイゴ」の英語名は、ウサギのような顔をしているところから「rabbit fish」という。
地方名も多く、棘に刺さると痛いところから、富山では「イタイイタイ」や「イタダイ」、山口では「オイシャ」などと呼ばれることもある。
沖縄では「スク」と呼ばれ、沖縄の珍味「スクガラス」はアイゴの稚魚を塩漬け(カラス)にしたもの。島豆腐の上に載せた「スクガラス豆腐」は、沖縄の居酒屋に行けばよく見かける人気メニューだ。
次に「イシダイ」のページをめくってみる。その名の由来は、石をかみ砕くほどの丈夫な歯を持つ魚の意から。『本朝食艦』には、「この魚 人の歯に似ている」との記載もあるそうだ。この歯で、ウニや貝類をバリバリ食べるのだとか。
ユニークなのは、「イシダイは縦縞か、横縞か」と書かれた見出し。イシダイは背から腹にかけて7本の縞模様があるのだが、これは縦縞なのか横縞なのかという問いだ。魚が泳いでいるときには縞は上から下に入っているように見えて縦縞のように感じるが、実はこれは縦縞とは言わない。魚に限らず、生物はすべて頭を上にした状態で考えることになっているから、イシダイは横縞というのが正しいのだそうだ。
また、出世魚の「ボラ」は、稚魚から成魚まで、いろんな名前で呼ばれている。東京では、ハク(2~3cm)→オボコ、スバシリ(3~18㎝)→イナ(18~30㎝)→ボラ(30㎝以上)というそうで、特に大きくなったボラを「トド」というそうだ。ここから生まれた言葉が「とどのつまり」。「結局のところ」という意味がある。ちなみに、11月~1月が旬のボラは寒鯔(かんぼら)と言い、臭みがなく脂ものり、タイに匹敵のおいしさなのだとか。
他にも、ウナギ、オコゼ、カツオ、コチ、コノシロ、ハマグリ、イセエビ、など、様々な魚介類の雑学や旬、言われなどがたっぷり紹介されている本書。自宅やお店でいつもと違う魚料理を食べながら、家族や友人との会話のきっかけになりそうな1冊だ。
ものがたり情報
『さかな博学ユーモア事典』(図書刊行会)
金田禎之
出版年:2011年
写真:高村瑞穂
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