海のレシピ project

Goto #2

広い海。波間で揺れ、太陽でおいしくなるひじきの力

[長崎県 五島市]

2021.11.17 UP

赤い色をした仲間のなかに一匹だけ、真っ黒な小さな魚のスイミーは、1963年にアメリカで出版された絵本の主人公。『スイミー』は、世界中で翻訳され、国も世代も越えて今もなお多くの人に愛され続けている一冊だ。自分だけ色が違うことにも価値を見いだし、懸命に生きていくスイミーは、現代の漁業で課題の一つとなっている未利用魚の姿にどこか重なるのではないか。

トピックス

香り豊かなひじきは手作業の天日干し

山戸一寿 工場長(マルキン水産食品有限会社)

古代から日本で食されているひじき。長崎県五島市では、法事や法要の際に精進料理とする食材であり、各家庭でも2-3キロぐらいは常備しているそうだ。日本ひじき協議会によると、近年、日本で消費されているひじきの約90%は輸入によるもので、国産はわずか10%ほど。では、一般市場で販売されている乾燥ひじきはどのようにして製造されているのだろうか。五島市でひじきを専門に扱うマルキン水産食品工場長の山戸一寿さんに天日干しへのこだわりや製造工程を聞いた。

「うちで扱っているひじきは、対馬や島原、平戸などすべて長崎県内で採れたものです。作業はまず、仕入れた素干しひじき(塩をかんだままのひじき)を井戸水で2度洗いします。ステンレスの釜で3時間ぐらい蒸らしたあと、夏季は昼から翌日の夕方まで、冬季は2〜3日ほど天日干しにします」

一度に扱うのは600キロぐらい。整備された天日干し専用の敷地で干す。笹箒(ささぼうき)でひじきをひっくり返しながら、まんべんなく干したあとは、手作業で長ひじき(茎ひじき)と芽ひじき(葉の部分)により分ける。その後、色合いを均一にするため、最初に蒸した釜の煮汁に戻し、翌日もう一度、天日干しする。ここまで最低でも3日かかる。

干しあがった後は、釣り針、貝殻、磯の砂などを取り除くために、風力選別機、色彩選別機を通し、目視で不純物を取り除いた上で、最後に金属探知機を通してやっと商品になる。

この春(2021年6月)、五島市崎山地区の海岸では、地元の中学生がひじき採りを体験した。「食育の一環で、中学生に採らせているのです。五島では天然のひじきは10年前ごろから採れなくなってしまいましたが、数年前から入り江になっているところの沖を網で囲っているので、その内側にはひじきが生えるようになりました。昔は、中学生だけで70-80万円もひじきを売り上げていたんですよ。それをクラブ活動の遠征費用にあてていたんです。でも今は売るだけの量はないので、今年のように採れても中学生が各家庭に持って帰って食べているんだと思います」

五島の人たちは、歯ごたえのある長ひじきを麺のように食べるという。また、一般市場に出ることはなく、直接、料理店に卸している特別に長いひじきもあるというから、地元独特の食文化にも興味がわく。

インフォメーション

マルキン水産食品有限会社
853-0023 長崎県五島市富江町松尾 785
TEL/FAX 0959-86-0306
http://www.mizuika.com/page0105.html