鎧武者に見立てられるクルマエビ
[鹿児島県 奄美市]
2022.01.31 UP
京都の老舗料亭・辻留の二代目主人だった辻嘉一。日本を代表する懐石料理の名料理人は、四季の素晴らしさを言葉にできる豊かな感性を持つエッセイストでもあった。様々な調理法や食材について書いた随筆『味覚三昧』には、「蝦(エビ)」の項目が。古来から日本で親しまれてきたエビの文化的価値、豊かな味わい。豊富な知識や芸術的感性を持って厨房に立った辻ならではの、エビの調理法とは。
レシピ
クルマエビは、日本各地の内湾に生息し、江戸時代から、天ぷらやすしに欠かせない素材とされてきた。近年は、内湾の開発や汚染により、天然ものは激減し、養殖ものがほとんど。さらに輸入ものが需要を補っている。天然ものの旬は6月から8月、養殖ものは12月から2月。養殖の歴史も古く、クルマエビ養殖発祥の地とされる熊本県上天草市で明治時代に始まった。現在は、熊本のほか、沖縄や鹿児島が主な養殖クルマエビの産地になっている。天然もの(稚エビ放流を含む)の漁獲量では、愛媛、愛知、大分が高い。エビはエラ呼吸をするので、体が乾いていてもエラの部分に水分があれば生きている。縞模様がしっかりと見え、透明で新鮮な生きたクルマエビを選ぼう。
具足煮とは、エビを殻ごと煮込み、煮汁もおいしくいただく料理のこと。具足は甲冑(かっちゅう)や鎧兜(よろいかぶと)のことで、エビの殻を具足にたとえている。普段の生活で聞き慣れない言葉だが、作り方は至ってシンプル。下ごしらえで、エビの尾に水が残っていると臭みが出てしまうので、きっちり切り落としておこう。エビの背腸は消化管(腸)。切り込みに竹串を差し込んで持ち上げると取りやすい。エビは煮すぎると身が固くなるだけでなく、うまみがすべて出てしまうので、要注意。
材料 2人分
有頭車海老 6尾 /百合根1/2個/ 柚子の皮 少々/昆布 3g /ミネラルウォーター 150cc
/酒大さじ1/ 味醂 大さじ1/2/ 薄口醤油 小さじ1/2 / 白味噌 10g
作り方
1)ミネラルウォーターに昆布を浸して3時間以上置いておく。
2)海老は尾の先を切り落として、背中から切り込みを入れて背腸を取り除く。塩水で一度よく洗って水気を拭く。
3)百合根はバラして水洗いし、茶色くなっているところを取り除く。大きいものはカットする。
4)鍋に昆布水と酒を入れて2)の海老と百合根を加えて強火にかける。沸々としてきたらアクを除き、味醂を加えて弱火にして紙蓋をして1分、薄口醤油を加えて1分煮る。
5)百合根に火が通っているのを確認して、具材を取り出し器に盛り付ける。煮汁に白味噌を溶き入れて一煮立ちしたら火を止めて周りに注ぎ、上に千切りにした柚子の皮を飾る。
料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年kurkku cafeのディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ/和マリネ』(エイ出版)がある。
写真:高村瑞穂