海のレシピ project

Amamishi

鎧武者に見立てられるクルマエビ

[鹿児島県 奄美市]

2022.01.31 UP

京都の老舗料亭・辻留の二代目主人だった辻嘉一。日本を代表する懐石料理の名料理人は、四季の素晴らしさを言葉にできる豊かな感性を持つエッセイストでもあった。様々な調理法や食材について書いた随筆『味覚三昧』には、「蝦(エビ)」の項目が。古来から日本で親しまれてきたエビの文化的価値、豊かな味わい。豊富な知識や芸術的感性を持って厨房に立った辻ならではの、エビの調理法とは。

トピックス

切手のデザインで知る甲殻類

水産学博士、東京海洋大学名誉教授 大森 信さん

世界中で広く漁獲され、消費されているエビ、カニなどの甲殻類は、原始の時代から人間の食料源であり、他の海洋生物(クジラや魚類)のエサともなる重要な存在だ。その鮮やかな色彩や形は、世界各国で郵便切手の図柄にもなっている。

長年、海洋生物の研究に携わってきた大森信さんによる『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』(築地書館、2021年7月)では、大森さんが約50年にわたって集めた甲殻類の切手1,500点以上から厳選された約300枚が属・種の分類群にしたがって紹介されている。発行年や発行国に加え、生活史や生態がわかりやすく解説され、著者自身が旅先で出会ったおいしい料理についての情報もたっぷり味わえる。

世界最初に切手の図柄になった甲殻類はヨーロッパアカアシザリガニで、1871年、ロシアの地方郵便で使われた。

「今の日本の切手は、グラビア印刷技術が進んでいますが、初期にヨーロッパ諸国で石版刷りされたものは品があると思います。デンマークやスウェーデンの切手はデザインが細かい。モナコの切手(1964年発行)には、日本にしかいない世界最大のカニであるタカアシガニが小さな限られたスペースに無駄なくデザインされています」

オランダ東インド会社の医師として1690年から約3年、日本に滞在したドイツ生まれのエンゲルベルト・ケンペル(1651-1716)は帰国後に日本についての記述を残していた。それはケンペル没後に『The History of Japan』(日本誌)として、英国およびヨーロッパ諸国で出版され、タカアシガニについても、駿河国のシマガニの名で模写図と説明が記されている。タカアシガニは、切手の図になったが、その生活史については、まだよくわかっていない。

チャールズ・ダーウィンの『種の起源』が出版されたのは1859年だが、その考察や記録は、ビーグル号で1831年から5年にわたり世界を航海中に続けられていた。南大西洋に位置するイギリス領の火山島、アセンション島には1836年に寄港しており、その150年を記念して、1982年に切手が発行された。描かれているのは甲羅が深紅色のオカガニだが、大森さんによると、同じオカガニでもダ―ウィンが見たのはジョンガルシア・ラゴストマという種だっただろうということだ。
「“陸のカニ”とよばれ、ウミガメの仔や海鳥のヒナも食べてしまう雑食性の大きなカニで、ダーウィンが到着したころには島内には相当多かったようです」

日本の食生活で、古くからなじみの深いエビといえば、クルマエビだろう。クルマエビ科のエビは、世界のエビ類の総漁獲量の70~75 パーセントを占めるのだそうだ。世界各国で、色とりどりの切手にクルマエビの仲間がデザインされている。エビ網漁船が描かれているものもあり、映画好きなら、「フォレスト・ガンプ」(1995年アカデミー賞受賞)を思い出すかもしれない。一艘の船の両側にアームを張り出し、それぞれの先端から後方に延ばしたワイヤーロープに小型のトロール網をつけて引く。

エビもカニも日本の食卓に定着している一方で、日本で発行された甲殻類の切手は、イセエビとズワイガニだけというのは残念なことだ。
「今回、この本を書いていて、切手に描かれているものの多くは、今ではあまり捕れなくなっていることに気がつきました。地球全体の水産資源だったエビやカニはどんどん減ってきている。また、生息域も変わってきています。貨物船など、大型の船のバランスを保つバラスト水に幼生がまぎれて移動したことが考えられますが、(私たちは)もっとそのことを意識しなければなりません」

地球全体の面積の約70パーセントを占める海。さんご礁はその海の約0.2パーセントに過ぎないが、そこには、133万種に及ぶ生物(単細胞生物を除く)が生息し、海の生物多様性がもっとも高いところとされている。地球温暖化による海水温の上昇や海洋の酸性化により、サンゴも育ちにくくなっている。海洋生物はその生態が解明されていない部分も多い。大森さんは、オーストラリア、アメリカ、タイ、フィリピン、イスラエルの研究者らとともに、サンゴとさんご礁を守るための活動を続けている。

インフォメーション

『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』
築地書館:2021年7月

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お話をうかがったひと

大森信さん(水産学博士、東京海洋大学名誉教授)
1937年大阪府生まれ。北海道大学水産学部卒、米国ウッズホール海洋研究所とワシントン大学大学院で学んだ後、東京大学海洋研究所、カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所、ユネスコ自然科学局海洋科学部門に勤務、東京水産大学教授を経て、(一財)熱帯海洋生態研究振興財団阿嘉島臨海研究所所長を務めた。日本プランクトン学会会長やいくつもの国際学術誌の編集委員を歴任。2002年にはNHK総合テレビより8回にわたって放送された「海・青き大自然」の総監修を、また2004年には映画「ディープブルー」の監修を行った。1970年、日本海洋学会岡田賞受賞。2011年、日本サンゴ礁学会学会賞受賞。