海のレシピ project

Amakusa

生態系を支える海藻たちの森を目指して

[熊本県 天草市]

2024.01.25 UP

これまで海のレシピprojectでも取り上げてきた、海の森と呼ばれる「藻場」の減少について。その問題に真正面から向き合い、未来の担い手として飛躍を続けるシーベジタブルの背景に迫る。「レシピ」では自家製の花椒オイルと高相性のハバノリの油そうめんを、「ものがたり」では古来から日本人の琴線に触れてきた、海藻の文様と色を紹介する。

ものがたり

海藻から生まれた色と文様「海松」

伝統色と海松文を探して

海松(ミル)という言葉をご存じだろうか。
浅瀬の海底で岩に生える暗緑色の海藻のことで、「海松文」という文様は平安時代の装束にも施された歴史を持ち、浜辺の風景を表す柄として織物や漆器、磁器に用いられている。

海藻のミル
写真提供:高浜焼 寿芳窯



天草の西海岸では、高級陶磁器の原料である「天草陶石」が約400年前から産出されているという。焼物の大産地である肥前地方(佐賀県・長崎県)での磁器生産が17世紀初頭に始まり、その後1650年代から肥後・天草でも生産されるようになった。
そして高浜村(現天草町)の庄屋であった上田家の上田伝五郎衛門(1733~1794)が、焼物作りで村人の暮らしを支えようと、肥前長与(長崎県西彼杵長与町)の陶工を雇い入れ、1762年に開窯(かいよう)したのが「高浜焼」だ。

1820~1860年代の染付海松文皿(染付名「天草嶋高浜製」)と復刻シリーズ
写真提供:高浜焼 寿芳窯



明治に一時途絶えたものの、昭和27年に再興させ現代へ引き継がれている歴史ある窯元で、現代に合わせたかたちで海松文を復刻した磁器でも知られる。窯元から徒歩数分の場所に海が広がっており、浜辺の文様は当時から日常的な風景の一部で親しみを感じさせるものだったのだろう。

さらに海松は、日本の伝統色にも名を連ねている。
英名をシーモス(Sea Moss)=海苔の色。暗い黄緑色を指す「海松色」として、平安以降に服色名としても表現に加わったそうだ。
「質実、剛健を旨とした鎌倉武士や、幽玄を心とした室町文化人に愛好されたと思われる」(長崎盛輝著『日本の傳統色彩』)という記述もあり、落ち着きをまとう色味は少々男性的。江戸時代に入ると茶がかった「海松茶」、藍気がかった「藍海松茶」「海松藍色」などの変相色も生まれた。

四季折々の風景から、高い美意識で抽出する伝統的な色やかたちとして選ばれた「海松」は、四方を海に囲まれた日本人の感覚に寄り添い、馴染み深さを物語る存在だ。


取材協力:高浜焼 寿芳窯
https://takahamayaki.jp/
参考文献:『日本の文様』(発行:PIE International、2013年)
長崎盛輝著『日本の傳統色彩』(発行:京都書院、1988年)


文・写真:村田麻実

インフォメーション

上田家資料館
良質で豊富に産出されてきた天草陶石の磁器は、オランダまで輸出された歴史も持つ。資料館には上田家に伝わる2,300点余りの古文書と、多数の陶磁器を収蔵。海松文を施した絵皿『古高浜焼海松紋皿』も展示されている。
(写真提供:高浜焼 寿芳窯)

熊本県天草市天草町高浜南598
時間:平日9:00~17:00、土日祝9:30~16:30
休館日:12月31日~1月3日、8月14~15日
料金:一般(高校生以上)300円、小・中学生100円、未就学児無料
TEL:0969-42-1115