海のレシピ project

Kobe

春を告げる魚と、夏を告げるフラッグ

[兵庫県 神戸市]

2023.05.31 UP

山と海の距離が近く、そのあいだに栄える街との景色が特徴的な神戸。須磨海岸は“ブルーフラッグ”を2019年に取得し、ますます「誰もが楽しめるビーチ」となって私たちを迎えてくれる。関西を代表するビーチの取り組みとともに、「レシピ」では西日本と瀬戸内の春告魚・鰆を、「ものがたり」では四季折々の魚の名前が心地よく響く大岡信の詩を紹介する。

トピックス

関西初のブルーフラッグ認証ビーチ

須磨海水浴場の取り組み

青い海、青い空。そして、青い旗が潮風に揺られている。この旗は「ブルーフラッグ」といい、世界が認める安全で美しい海の証だ。最も歴史のある国際認証制度でありながら、日本での取得実績は8カ所のみ(2023年5月26日現在)と国内ではまだまだ認知度が低いものの、このところ申請数が急増しているという。

海開きから掲げられるブルーフラッグ(写真提供:神戸市港湾局海岸防災課)


国際NGO FEE(国際環境教育基金)が実施するブルーフラッグは、ビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした国際環境認証のこと。誕生したのは1987年。環境問題が今よりも注目されていなかった当時、フランスで子どもたちが手紙を入れたボトルを大西洋に流して、それが漂流した先を分析することで潮の流れに乗って漂流ごみがどのように分散するかを調べようとする試みに始まった。この実験は残念ながら成功にはいたらなかったが、このことがきっかけで海辺の環境基準の基礎が生まれることとなった。ブルーフラッグの構想はEUの支援により次第にヨーロッパ全域に広がり、現在では世界51カ国で5,000以上のビーチやマリーナ、観光船舶が認証を取得している。

「国内で初めてブルーフラッグを取得したのは2016年。由比ヶ浜海水浴場(神奈川県)と若狭和田海水浴場(福井県)に始まり、2022年はビーチ6カ所とマリーナ1カ所が認証を取得しています。まだまだ数は少ないですが、SDGsといった言葉の広がりとともに、認知度は急速に高まっているように感じています」

そう話すのは、FEE Japanから運営のバトンを引き継ぎ、昨年よりナショナルオペレーターを担っている一般社団法人JARTAの月江潮さん。サステナブルな意識が日本でもようやく広がってきた昨今、ビーチも例外ではないようだ。

ブルーフラッグ認証を受けるには厳しい基準をクリアする必要がある。例えばビーチでは4分野33項目、マリーナでは6分野37項目、観光ボートでは5分野51項目の基準が設けられていて、すべて基準を満たしてはじめて、青い旗を掲げることができるのだ。

「ビーチの4分野とは、地域に向けた環境教育プログラムの実施や利用者に対してきちんと情報提供ができているかという『環境教育と情報』、数字で厳しく水質を判断する『水質基準』、ライフセーバーの配置やごみの処理生態系保護といった運営に関する『環境マネジメント』、安全対策や身体障害者の方へ向けたアクセスや設備などをチェックする『安定性・サービス』の4つの柱のこと。特に水質は何度もサンプリングする必要があり、非常にシビアです」

毎年審査を受けて更新する必要があるため、月江さんいわく「国際基準は健康診断みたいに状態を把握するための、自己診断ツールのようなもの」でもあるそう。他と比べるのではなく、自分達がどれだけごみやCO₂を出しているのかなど、現状を知ることが環境改善の取り組みの第一歩になるという。

しかし、一朝一夕では結果を出すことができないゆえ、この取り組みは収益だけを目的とする単純な話ではない。「ブルーフラッグ認証を取得することが地域全体の誇りになっているという話を聞きます。地域の環境配慮のために、ブルーフラッグという国際基準を活用してもらえたら」。その言葉をまさに体現した事例の一つが、兵庫県の須磨海水浴場だ。

JR須磨駅に降り立つと目の前が海。山・街・海のこの距離感が神戸らしい。


神戸の西に位置する須磨海水浴場。繁華街である神戸・三宮から電車で約15分とアクセスも良く多くの人で賑わう一方で、利用者のマナー違反などから治安も問題視されてきた。
須磨海岸を昔から知る筆者にとっても長らく“家族で行きづらい海”だったような印象がある。そんな須磨の海が2019年、関西で初めてブルーフラッグ認証を取得した。

そのきっかけは、「健全化や再整備の取り組みへの評価指標として、ブルーフラッグ認証が使えるのでは」という庁内からの声だったという。これまでにも2008年には「須磨海岸を守り育てる条例」が制定され、健全化や水質汚染の改善のための再整備を進めてきたが、行政主導だったアクションから、地域と一体になって海岸の安心・安全対策や環境問題といった問題に積極的に取り組み始めた。

具体的には、ビーチでの遵守事項を明文化することはもちろん、海岸内の禁煙や三輪バギーの侵入禁止等も条例に規定。さらに2018年度からはファミリーエリアを設置し、エリア内での飲酒や迷惑行為を禁止して、家族で楽しめる海へ。現在はスマイルビーチエリアとして、より多くの人がリラックスできる環境になっているほか、防犯カメラや遊歩道へのフットライトを設置することで、誰もが安全に安心して楽しめる海岸を目指した。また、遠浅に整備された砂浜で潮干狩りを実施するなど、漁業振興を通じて賑わう海岸づくりにも力を注いだ。

中でも注目なのが、海岸のバリアフリー・ユニバーサルデザインの取り組みだ。海岸に身体障害者の方向けのトイレ・シャワー・更衣室を備えて、階段護岸にはスロープを設置。また、NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクトが砂浜にビーチマットを導入して、車いすに乗った人も波打ち際まで行けるようになった。「車いすで海は楽しめない」という既成概念を破りたいと始まったこのNPOの活動はこの5月、国際NGO FEEが掲げた「accessibility」というテーマのベストプラクティスにおいて2位に選ばれた。

ゆるやかなスロープが砂浜へと続いている


安全で美しい海を保ち続けることは、未来を守り、みんなに優しい海を作ることなのだと感じた須磨海岸の事例。認証を受けることがゴールではなく、ここからがスタート。いつか日本中の海に青い旗がたなびく日が来るのも、そう遠くないのかもしれない。


文:原田麻衣子
写真:望月小夜加

インフォメーション

須磨海水浴場

場所:神戸市須磨区若宮町1丁目から須磨浦通6丁目までの海浜地
砂浜の長さ:約1800メートル
<西地区へ>
JR「須磨駅」下車 南すぐ
山陽電車「山陽須磨駅」下車 南へ徒歩約3分
<東地区へ>
JR「須磨海浜公園駅」下車 南へ徒歩約7分
山陽電車「月見山駅」下車 南へ徒歩約15分

須磨ユニバーサルビーチプロジェクト

みんなの“できない”できないを“できた!”に変えるを合言葉に、障害を持っている方やお年寄り、子どもたちまで誰もが楽しめるビーチを目指し、さまざまなアイテムとアイデアを駆使してユニバーサルなビーチの普及活動を行っている。
※「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施されています。