海のレシピ project

Tsukiji

大海へ出て、故郷に戻る、鮭

[東京都 築地]

2021.12.12 UP

江戸時代から冬の贈答品とされてきた塩鮭は、絵師の長沢蘆雪(1754-1799)が墨絵で描き、葛飾北斎(1760-1849)が肉筆画帖に残している。北斎は明るい色彩で緻密に描かれているが、絵であることは一目瞭然だ。ところが、幕末明治期に高橋由一が油絵で描いた『鮭』は、質感があり、まるで本物みたい。日本の油彩の黎明期に思いをはせながら、鮭の未来を考えたい。

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教えて、しゃけこさん。おいしい鮭が食べたい!

有限会社昭和食品・佐藤友美子さん(通称しゃけこさん)

おにぎりの具や弁当のおかずとして安定した人気を得ている鮭。日本では縄文時代から鮭が食べられているという。東京の築地場外市場に店舗を構え、創業70年になる昭和食品の三代目店主の佐藤友美子さん(通称しゃけこさん)は鮭を扱って30年。鮭の種類や産地のことはもちろん、おいしく調理する料理のコツなど、何でも教えてくれる。

「うちはずっと塩鮭を扱っている店です。塩鮭って、意外と説明するのが難しいんですよね。生物学的に、白鮭って言われる鮭にも秋鮭と時鮭があって、日本で一般的に市販されているのはどちらも北海道でとれたもの。秋鮭は日本国籍の鮭というか、日本の川で生まれて、北の海を泳いで4-5年たって、また生まれた川に戻ってくる」

天然の鮭の多くは、人工ふ化により、約半年かけて育てられた稚魚が放流され、約4年かけて外海で成熟する。このふ化放流は、明治時代にはじまり、昭和にはいると国を挙げて推進されてきた。ここ数年は、放流する稚魚の数は変わらないのに、漁獲量は顕著に減少している。地球温暖化により上昇した海水温に稚魚が対応できなかったり、水温が高すぎて回帰がかなわなかったりするためだ。

「10年ぐらい前までは、宮城の牡鹿半島、金華山あたりでも捕れていたのに、もう今はとれない。岩手でも厳しい。天然の鮭がごく自然に食べられるのは今の時代が最後かもしれない。だから、大事に食べてほしいと思う」

鮭は、毎日食べていても飽きることがない奥の深い魚で、長年食べていると、年齢によって、好みの味も変わってくると、しゃけこさんは言う。若いときは塩がきついと思っていたのに、年を重ねるとおいしいと感じるとか。

お店には、ふるさとの味を求めて来るお客さんもいる。南部鼻曲がりがその一つ。旧南部藩の岩手県大槌の名産で、塩漬けした鮭をいったん塩抜きした上で、寒風にさらして水分を抜いたもの。独特の風味があるという。新潟県村上の塩引鮭も塩漬けと干すことで熟成しうまみを増した鮭になる。

紅鮭はカナダ産のものを扱っているが、ここの紅鮭は、3年に一度しか捕っていないそうだ。カナダでも一時期乱獲して捕れなくなっているため、当然、漁に制限がかかっている。

「紅(鮭)ってうんと塩をして寝かせるほどおいしくなる。私がここに来たころ、鮭はしょっぱいものだった。甘塩が好まれるようになってきて、お客さんから、『こんなしょっぱい鮭は食べられなくてすてちゃった』といわれた時代もあったんですよ。そういうことを言われないように上手に料理して、余すことなく食べてもらうようにすることが私たちにできるSDGsなのかなと思います」

鮭おにぎりのレシピ100選をホームページで紹介したり、鮭とごはんの本を出版したり、鮭への愛にあふれる幅広い活動を続けている。

お話を伺ったひと

佐藤友美子さん(昭和食品店主)
鮭を買いに行った築地の鮭屋さんに縁あって拾われ、包丁使いを学び、30年を経て店を引き継ぎ店主となる。その間、築地好きが嵩じて、市場の昔話を聞き書きし、「築地 鮭屋の小僧が見たこと聞いたこと」(イソップ社)を著す。鮭を求めて産地を行脚し、鮭のみならず築地魚河岸の無限の魚を食べ尽くすべく、魚遍路の日々は続く。市場では「しゃけこさ〜ん♪」と呼ばれれば「ハーイ♪」と応え、鮭について語りだせば、止まらないとか。