豊かな海で獲れるタラから生まれた家庭料理
[東京都 日本橋]
2022.04.15 UP
『赤毛のアン』はひとりの女の子が爽やかに青春の扉を開き、大人になっていく物語。そこに登場するいくつものエピソードにあわせて、カナダ風家庭料理や手作りの小物を紹介する『赤毛のアンの手作り絵本』は読者を物語の中にさらに深く引き込んでくれる。家庭料理に注目すると、物語が書かれた時代から、自然環境が大きく変化していることにも気がつく。
ものがたり
生まれてすぐに両親を失い、孤児院で育つアン・シャーリー。髪は赤毛で顔はそばかすだらけのやせっぽち。カナダのプリンス・エドワード島に住むマシュウとマリラ兄妹に引き取られ、失敗を繰り返しながらも発想の豊かさや勤勉さ、好奇心の強さも幸いし、親友のダイアナや同級生のギルバートたちとの学生生活を楽しみ、聡明な大人へと成長していく。これがカナダの小説『赤毛のアン』の主人公だ。1908年に発表されて以来、時代も国境も超えて読み継がれ、愛され続けている。
この物語の舞台、グリーン・ゲイブルズ(緑の切妻屋根)を中心に、登場する料理や手作りの小物を丁寧な解説とともに紹介している『赤毛のアンの手作り絵本』は、40に及ぶ項目を読み進めるだけでも、プリンス・エドワード島の美しい自然が目に浮かんでくるよう。
「赤い毛くらい、いやなものはないと思っていたけれど、いまとなってみれば緑色の髪のほうが10倍もいやなことがわかったわ」
アンが次々と巻き起こす事件に、読者は引き込まれていく。たとえば、コンプレックスだった赤毛を、行商のおじさんから買った染め粉で黒髪にするはずが、緑色にしてしまったこと。いったん緑色になった髪の毛は、何度洗っても少しも落ちない。結局、マリラが徹底的に短く切るしかなかった。そんなアンに、本書は、きれいな布を使って工作をしたり、目先を変えたメニューとして、きのこのサラダと鶏のオリエンタル風、それと、ポテトを皮つきで丸のまま揚げた料理を提案する。
「マシュウ、マシュウ、どうしたんです。気分がわるいんですか?」
それは、マリラの声だった。
タラのレシピが登場するのは、物語のシリーズ第1巻の終盤だ。
<いつもいるべき人がいない淋しさは、食事の時に一層つのるもの。せめて、心乱さずに済むように、あたたかい献立を選びましょう>
アンの大好きなマシュウ。以前から心臓を悪くしていたマシュウは、銀行破産のニュースを知るとショックで倒れ、そのまま永遠の眠りについてしまった。ここでは、アンとマリラが互いになぐさめあいながらつくる食事として「淋しさをまぎらわす心やさしいディナー」を伝える。マリラが作るたらの蒸し煮は、家庭的なぬくもり、やさしさを感じさせる。時をかけて悲しみを乗り越えていくために。
ものがたり情報
『赤毛のアン』は、カナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリが1908年に発表した長編小説。日本では、1952年に村岡花子による翻訳が刊行された。小説にとどまらず、映画、舞台、アニメ、マンガ、テレビドラマなど、多様なメディアで作品になっている。
赤毛のアンの手作り絵本
(1985年22刷)
赤毛のアンの手作り絵本II 青春編
(1989年27刷)(出版社 鎌倉書房)
赤毛のアン ―赤毛のアン・シリーズ1― 村岡花子訳
(新潮社) 出版年2008年
写真:高村瑞穂