豊かな食卓を支えるコンブの旨味
[北海道 札幌市]
2021.10.01 UP
和食の味の基礎となる“出汁”。煮干し、椎茸、魚、野菜などで出汁をひく方法もあるが、やはり昆布と鰹節の合わせ出汁が基本となる。そのひとつひとつの行程を、詩人・長田弘は言葉で表現した。詩集『食卓一期一会』所収の、ある一遍。昆布を使う意味とは。削りたての鰹節をすぐに取り除く目的は。暮らしのなにげない1ページが、軽やかな詩になった。
レシピ
煮物、味噌汁、炊き込みごはん。家庭料理でも和食に“出汁”は欠かせない。料理の前段階の工程だが、このひと手間が味を決めてくれる。昆布と鰹節の出汁の基本を、料理研究家の大黒谷寿恵さんに教わった。「出汁をひくのは大変と思われがちですが、出汁さえひいてしまえばその後の調理はとても楽になります。出汁の旨味はとても頼れるものなのです」(大黒谷さん)
大黒谷さんに提案してもらったのは、出汁の味を堪能できる“土佐酢”を使ったメニュー。土佐酢とは三杯酢に出汁を入れて作る、鰹の風味が効いたまろやかな酢のこと。出汁にさらに鰹節を加えて鰹の味を強める(追い鰹)。カラッと揚げた太刀魚の唐揚げに胡瓜大根おろしを添え、土佐酢を注ぐ。
出汁のひき方は、まず、昆布を用意する。ここでは真昆布を使用しているが、真昆布はおすましのような澄んだ出汁が取れる昆布だ。利尻昆布も会席料理に使われるような上品な味。コクのある濃い出汁が取れる羅臼昆布は、麺つゆなどに最適だ。スーパーなどで多く売られている一般的な出汁昆布は、日高昆布。産地によって旨味が異なるため、料理や気分で使い分けるといいだろう。種類によって厚みと幅が違うため、レシピ通りの重さを量っておきたい。
鰹節は、節から削ったばかりのときが最も酸化されていない新鮮な状態。しかし家庭で削り器を使用するのは難しいので削り節で構わない。一般的な削り節は血合いが入っている。極力雑味のない出汁をひきたい場合は、“血合い抜き”と書かれた削り節を使うのがおすすめだ。
出汁をひくポイントは、昆布や鰹節を入れたときのお湯の温度だ。昆布を一晩以上(3時間くらいでもOK)浸しておいた水を、弱火にかける。水面から湯気が立ち上がってくる程度が60℃だ。アクが出ていたらスプーンですくい取り、味見をして、旨味が出ていれば昆布を取り出す。
鰹節を入れる前に、出汁を濾す器具を用意しておく。さらしを濡らして絞っておき、ざるなどにセット。昆布を取り出したら火を強め、沸騰直前(90℃ぐらい)になったら鰹節を入れる。濁る原因になるので触らないこと。鰹節が鍋に沈んだら味見をして、素早く濾す。昆布や鰹節をそのまま口にしてみることも、旨味をより知るための第一歩だ。
材料 2人分
太刀魚 2切れ/昆布 8g/塩 2つまみ/水 500cc/酒 大さじ1/鰹節 10g+5g/片栗粉 大さじ1/薄口醤油 60cc/米粉(無ければ薄力粉) 大さじ1/味醂 60cc/大根 2cmほど/米酢 120cc/胡瓜 1/2本/木の芽 適量/いんげん豆 6本/揚げ油/適量
作り方
1)昆布を水に浸し3時間以上置いておく。弱火にかけ水面から湯気が立ってきたら味見をし、昆布の旨味が出ていれば取り出す。
2)1)の鍋を強火にして沸騰手前で火を止め、鰹節10gを入れる。鰹節が沈んだら味見をして、鰹の旨味が出ていたらガーゼなどを敷いたザルで濾す。
3)2)の合わせ出汁300ccを鍋に入れて、薄口醤油、味醂を入れて一煮立ちさせる。そこに鰹節5gを入れて1分ほどしたらガーゼなどを敷いたザルで濾す。米酢を加えて混ぜてそのまま冷ます。土佐酢の出来上がり。
4)大根は皮を剥いてすり下ろし水気をよく切る。胡瓜は塩(分量外)で板摺りして洗ってから縦に半分に切って中の種の部分をスプーンなどで取り除き、すりおろす。水気をよく切って、大根おろしと混ぜておく。
5)太刀魚は内臓や血合いを取り除いて洗い、水気をよく拭き、骨ごと半分に切る。塩と酒をまぶして10分ほど置いておく。
6)袋に片栗粉と米粉を入れて振って混ぜておく。揚げ油を180度に温める。4)の太刀魚の水気を拭いて袋に入れて振って全体に粉をまぶし余分な粉ははたいて、油に入れる。時折上下を返しながら、周りがカリッとなって箸でつまむとシュワシュワっと中の水分が沸騰している感じがあれば取り出して油を切る。いんげん豆は3~4等分に切って皺が寄るまで素揚げし、塩を少々振る。
7)3)の土佐酢50ccほどを小鍋に入れて軽く温める。器に太刀魚と胡瓜大根おろしを添え、木の芽を添えて土佐酢を周りから静かに注ぐ。
*土佐酢は叩いた梅、すだちや柚子の皮のすりおろし、練りごま、などを混ぜてアレンジしたり、ゼラチンを加えてジュレにして野菜や刺身にかけても美味しい。肉、魚、野菜、素麺などどんな素材とも合う万能調味料。冷蔵庫で10日ほど保ちます。
料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年kurkku cafeのディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ/和マリネ』(エイ出版)がある。
海のレシピ・オススメ食材
(左)こんぶ土居/白口浜二年栽培 真昆布 60g
https://www.konbudoi.jp
(右)タイコウ/本枯節 花くらべ 40g
http://www.taikoban.info/renew/
大黒谷さんがおすすめする出汁用の昆布と鰹節。大阪の昆布文化は、江戸から明治にかけて北海道の食材を大阪に運んでいた北前船の存在に由来する。大阪の昆布問屋「こんぶ土居」は、真昆布の産地の中でも旧南茅部町(現・函館市)の川汲浜や尾札部浜で獲れる白口浜真昆布を主に扱う。朝廷や将軍家に献上されていたこともあるほどの最高級の昆布だ。一方、良質な鰹節は江戸に集まった。東京・勝どきにある「タイコウ」は三代に渡って鰹節を扱う鰹節問屋。鹿児島・枕崎産のカツオを仕入れ、丹精を込めて本枯節に。それを丁寧に細かく削った鰹節は、出汁はもちろん、料理にトッピングするなどそのまま食べてもおいしい。昆布と鰹節、合わせることでそれぞれの旨味が何倍にも引き立つ。
写真:高村瑞穂