海のレシピ project

Toba

海のなかを心身で体感する海女の声

[三重県 鳥羽市]

2023.03.24 UP

海女漁は日本各地の沿岸で続いているが、なかでも志摩半島は歴史が古く、現在もっとも海女が多い地域だ。伊勢湾に浮かぶ島を舞台に三島由紀夫は『潮騒』を執筆。たびたび映画化もされ、そのイメージが描かれた。 そんな海女たちの“現在”を追って、鳥羽へ。体ひとつで潜り、厳格なルールのもと獲物を獲る漁法は資源管理に適しているのはもちろんだが、根底に流れるものは畏敬の念をもって向き合う姿勢だった。

レシピ

トコブシの中華風粥

[トコブシ]

トコブシは、姿形はアワビに似ているが、サイズは長いところで6㎝ほどの可愛らしい一枚貝。志摩半島では、春から夏の海女漁でよく採られ、アワビよりもやさしくモチモチとした歯ごたえがある。
殻付きのまま煮ることもできるが、殻を外して調理する場合は、熱湯にさっとくぐらせるとよい。ここで完全に火を通す必要はないので、ゆですぎて旨味を逃さないようにくれぐれも注意して。今回は取り出した身を昆布だしでゆっくりと煮て、その煮汁でお粥を作るという算段だ。肝は別に蒸して裏漉しし、お粥に濃厚な風味を加える調味料の役割に。
トコブシを採る海女漁は、あえてタンクを背負わずに限られた時間で行われる。海の恵みを大切に守りながらもありがたくいただく海女漁に敬意を表し、捨てる部分は最小限に。食べられるところは最大限に利用して、熱々のお粥をしみじみと味わいたい。

[作り方]

材料(2~3人分)
トコブシ 8個/米 100g/昆布 25g/水 1.5ℓ/酒 50㎖/太白胡麻油 小さじ1/2/塩 少々/淡口醤油 少々

1)鍋に昆布と水を入れ、3時間以上おく。弱火にかけ、水面から湯気が出てきたら味をみて、旨味が出ていれば火を止めて昆布を取り出す。

2)米は洗って1時間ほど水につけ、ざるに上げて30分ほど水きりをする。

3)トコブシはたわしでこすって洗い、熱湯に数秒つけて氷水にとる。スプーンやテーブルナイフなどで殻から身を外し、ひも、肝、口を取り除く。

4)3)の肝は耐熱容器に入れて酒小さじ2(分量外)をふり、ラップをする。フライパンに湯を沸かし、フツフツとしたら別の耐熱の器を伏せて置く。肝を入れた容器をのせ(ラップが底につかないように注意)、ふたをして10分ほど蒸す。または酒と共に小鍋に入れ、ふたをしてよく弱火で蒸し煮にしてもよい。火が通ったら、熱いうちに裏漉しする。

5)トコブシの身、酒を鍋に入れ、1)の昆布だしのうち1ℓを加えて中火にかける。フツフツとしたら弱火にし、ゆっくりと1時間以上煮る。トコブシが柔らかくなったらバットに取り出し、塩少々、煮汁適量(身が乾かない程度)をふってラップをしておく。

6)炒め物ができる土鍋(または厚手の鍋)に太白胡麻油を入れて中火で熱し、2)の米をさっと炒めて油でコーティングする。4)の煮汁が温かいうちに(冷めていたら温め直して)米に加え、強火で沸騰させ、弱火にして時々混ぜながら20分ほど煮る。汁気が足りなくなったら、残りの昆布だしを適宜加えるとよい。

7)4)を6)の汁大さじ1でのばし、6)に加えて混ぜ、塩と淡口醤油で味を調える。5)のトコブシを3~4等分の薄切りにして加え、さっと混ぜて温める。

料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年kurkku cafeのディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ/和マリネ』(エイ出版)がある。

文:奈良結子
写真:高村瑞穂