海のレシピ project

Itoigawa

鮮やかな紅色をまとう、ベニズワイガニ

[新潟県 糸魚川市]

2022.04.07 UP

古くから語り伝えられてきた日本の昔話は、地域によって少しずつの違いがあるものの、いずれの物語にも人と自然のつながりが背景に見え隠れしている。絵本の『さるかに』は、松谷みよ子の文章に寄せられた長谷川義史の力強い絵によって、読者の想像力を広げ、大海原へ連れて行ってくれるかのようだ。この物語の舞台であろう新潟の海や地形についても考えたい。

レシピ

ベニズワイガニの和製スパゲッティー

[ベニズワイガニ]

新潟県糸魚川市の特産品ベニズワイガニ。体全体に紅色が濃いことからその名がついた。その生息域は、日本海と銚子以北の北海道に至るまでの太平洋岸やオホーツク海までと広範囲におよぶ。年間を通して水温が0度前後と変化が少ない、水深800mほどの水域に生息しているため、はっきりとした旬が無い。つまり、いつでもおいしく食べることができる。ただ、資源保護のため、港によって禁漁期をもうけているので注意したい(その時期は地域によって異なる)。

[作り方]

ベニズワイガニは、甲羅と脚を切り離し、胴体部分と脚に詰まっている身を、軟骨の取り忘れがないように確認しながら、ほぐし出す。身を取り出した殻は、出汁をひくための大切な材料。あらかじめ昆布を入れておいた水で殻を煮出し、かにの風味がでてきたら、火を止め、殻が入らないように濾して、出汁ができる。この出汁でスパゲッティーをゆでるのだから、蟹の風味がしっかりとスパゲッティーにしみこんでくれること間違いなし。ソースには、蟹味噌と身、そして白菜も活躍する。白菜は、うま味成分として知られるグルタミン酸の含有量が高い野菜なのだ。仕上げには、ほんのり香り付けに薄口醤油を加える。ゆずの皮を散らして、贅沢なスパゲッティーのできあがり。

材料(2人分)
ベニズワイガニ 1/2パイ分/ 昆布 10g/ミネラルウォーター 600cc/ 酒 大さじ1/スパゲッティー 160g/粗塩 小さじ1/2/白菜の内側の部分 100g/エクストラバージンオリーブオイル(exv) 大さじ1/柚子の皮 適量/薄口醤油 小さじ1/2

手順
1)鍋に昆布と水を入れて3時間以上置いておく。

2)白菜は3cm長さの短冊切りにする。

3)茹でベニズワイガニはサッと水洗いして、解体して身と味噌を分けて取り出す。残った甲羅(袴とエラは雑菌が多いので捨てる)と酒を1)の鍋に入れて中火にかける。沸騰手前で昆布を取り出し、10分ほど煮て蟹の風味が出ていることを確認して濾す。

4)3)の出汁に500ccになるよう水を足し粗塩を入れて火にかけ、沸騰したらスパゲティーを入れて茹でる。

5)フライパンに3)の蟹の身と味噌を入れる。茹で上がる1分前に白菜を加え、茹で汁を50ccほど加えて軽く沸騰させる。火を止めてスパゲッティーと白菜。薄口醤油、exvオリーブオイルも加え、手早くフライパンを煽ってソースを乳化させる。

6)皿に盛り、柚子の皮を削って散らす。

point 殻から蟹の出汁をひくところ。この旨味をスパゲッティーに吸わせて、シンプルだけれど蟹の風味満載に仕上げる。

料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年kurkku cafeのディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ/和マリネ』(エイ出版)がある。

特別な日だけでない、日常で楽しめるベニズワイガニ

ベニズワイガニの専門店「惣栄丸」高木浩子さん

水揚げされたときから、鮮やかな朱色の甲羅であることからその名がついた、ベニズワイガニ。
新潟県糸魚川市、能生漁港の隣に位置する道の駅「能生マリンドリーム」には、ベニズワイガニ専門の直売所8店がずらりと立ち並ぶ。この場所では、日本海を目の前に、その場で新鮮なベニズワイガニを食べることができる。1人にひとつ、カニが丸ごと入った桶を抱えて、豪快に海の幸をいただく風景はこの場所ならではだ。

直売所「惣栄丸」の高木浩子さんは、地元の複数の漁船からカニを仕入れて販売している。
「ベニズワイガニは、卸売市場がなくて漁船で水揚げされたのち、すぐに港にある加工所”カニ茹で場”で茹でられ、直売所へ運ばれます。ベニズワイガニは、とにかく水揚げから茹でるまでの時間を短くして鮮度を保つことが美味しさの秘訣。漁船ごとにカニを茹でるから、茹で時間や塩加減も少しずつ違う。茹でるまでが船頭さんたちの仕事で、腕の見せどころなのよ」

ベニズワイガニの水揚げから茹での工程を見せてくれたのは、「惣栄丸」の仕入れ先で直売所も営んでいる漁船「海富丸」代表の木村忠夫さん。

一般的なズワイガニは水深200mほどのところに生息するのに対して、ベニズワイガニは水深800mの深海に生息する。漁の方法も異なり、鉄籠を1箇所の漁場につき100個ほど沈めて、冷凍したさばを餌に仕掛け、一度陸に戻ったあと、10日ほど経ってから回収のために再び海へ出る。
漁の解禁期間も、ズワイガニは毎年11月〜3月頃の5ヶ月間と短く、希少性もあって高価になる。それに比べて、ベニズワイガニは毎年3月〜12月が解禁期間、1月〜2月の2ヶ月間のみが禁漁期間となる。禁漁期間が短い分、漁獲量も多くなるので、安価に美味しいカニが食べられるのだそう。

今年でお店を始めて28年になるという高木さん。
「産地直送の魅力は、目の前の海からベニズワイガニが水揚げされ、その場で茹で、添加物も一切加えていない、安全な商品を売れること。地元のものを売って商売するのだから、沢山の人に喜んでもらわないと、と思ってやっています。」と笑顔で話してくださった。

お店情報

惣栄丸
〒949-1351 新潟県糸魚川市能生小泊3596-2 道の駅 マリンドリーム能生
電話番号:025-566-2553
https://soueimaru.jp/

写真:高村瑞穂