海のレシピ project

Itoigawa

鮮やかな紅色をまとう、ベニズワイガニ

[新潟県 糸魚川市]

2022.04.07 UP

古くから語り伝えられてきた日本の昔話は、地域によって少しずつの違いがあるものの、いずれの物語にも人と自然のつながりが背景に見え隠れしている。絵本の『さるかに』は、松谷みよ子の文章に寄せられた長谷川義史の力強い絵によって、読者の想像力を広げ、大海原へ連れて行ってくれるかのようだ。この物語の舞台であろう新潟の海や地形についても考えたい。

トピックス

海底から山へ、山から海へ、旅をする石、ひすい

糸魚川市 文化振興課文化財係 小池悠介さん

日本海の荒波に山が削られ、断崖絶壁が海に落ちる、新潟県糸魚川市の親知不・子知不。
断崖の下の海岸線、狭い砂浜の波間を縫って進まなければならないその道は、親は子を、子は親を省みることができないほどに険しい道であったことからその名がついたそう。
糸魚川市内のあらゆる海岸では、丸石が浜いっぱいに広がる。波に打たれて海水に濡れた石は、それぞれの個性を放って、きらきらと美しく輝いている。それは大人が時間を忘れて、石拾いに夢中になってしまうほど。
宝の山のような無数の石の中には、日本を代表する「国石」でもあり糸魚川が日本最大の産地である”ひすい”が転がっていることも。

ひすいは、どのようにして海岸にたどり着くのだろう。糸魚川市のフォッサマグナミュージアム/長者ケ原考古館の学芸員 小池さんにお話を伺った。

「ひすいは、もともとプレートが重なり、下に沈み込む海溝の地下深部で誕生し、長年の地殻変動で地上まで押しあげられます。山脈の形成に伴って高所に位置するようになった糸魚川のひすいは、山中から川を下って、削られながら海までたどり着くのです」
遠い海からはるばる旅をして流れ着いた石だと思いきや、ひすいはなんと、かつての海底が山となり、現在の山の中から雨水によって川へ流され、海岸へたどり着いていたのだ。

そんなひすいの歴史は、およそ7,000年前の縄文時代まで遡る。
「海にたどり着いたひすいを古代の人々は拾って、最初はハンマーのようにものを叩いたり割ったりする道具として使いました。その後、縄文時代前期になって首飾りなどの装飾品として用いられ、縄文時代晩期頃にひすいの勾玉が作られ始めます。ひすいは糸魚川の地から、北は北海道、南は九州まで流通していきました」

「ひすいのように、6,000年以上も前から祭祀として全国で使われていた石はありません。ひすいの翠色は、草木の新緑のように生命を感じさせる色だったことから、人々が魅せられたのではないかと考えています」

ひすいの影響もあって、糸魚川は多様な文化が見られる土地だという。
「糸魚川は西日本と東日本の文化の合流地点で、色々な風土の影響を受けています。また、谷が多い地形で、谷ごとに文化が異なります。世界ジオパークにも認定され、地質や鉱物が非常に稀なことで注目される地域ですが、その土地で暮らす人々の文化や慣習が古くから今に数多くのこっているのも、この地域の特徴だと思います」

小池さんは、地域で様々な生業を営む20代〜60代のメンバーから成る、「美山プロジェクト」にも参画している。糸魚川・美山公園を拠点に、子どもから大人までが楽しめるイベントや外あそびを展開し、地域の魅力発信に全力で取り組んでいる。
「糸魚川の歴史や文化を、多くのひと、特に自分と同じ若い世代に知ってもらいたいです。そのために、今まで遺跡や文化財は“保存”に重きが置かれていましたが、保護しながら活用することで、発信していきたいのです。糸魚川に来たら、まずはフォッサマグナミュージアムと長者ケ原考古館に立ち寄り、地質や歴史を知ってもらってから、海や街に出かけて、鉱物や人々の生活に触れてほしいです」

確かに、知ると知らないでは大違い。ミュージアムと考古館を訪れたあと、再び海へ向かってみると、目の前の景色はまた別の表情に見えてきた。
地底で誕生し、やがて海へ運ばれるひすい。それはまるで自然がくれた「時の結晶」のように、古代から現代まで人々を魅了しつづけている。

お話を伺ったひと

糸魚川市 文化振興課文化財係 小池悠介さん
大学時代から考古学を専門に学び、現在は糸魚川市の文化振興課で主に埋蔵文化財の保存・普及を主に担当する。新潟県新潟市の出身で、大学院時代に研究の一環で糸魚川を訪れ、縄文文化を研究したことをきっかけに、糸魚川市の職員となる。最近は、市内の小学生向けに歴史の授業を行うことも。糸魚川市の小学生には、ひすいの認知率が100%なんだとか。

博物館の情報

フォッサマグナミュージアム
〒941-0056
新潟県糸魚川市大字一ノ宮1313
https://fmm.geo-itoigawa.com/about/facility/

長者ケ原考古館
〒941-0056
新潟県糸魚川市大字一ノ宮1383
https://fmm.geo-itoigawa.com/collection/choujagahara-am/

写真:高村瑞穂