海のレシピ project

Mutsu

ホタテのひとさらにみる美しい海

[青森県 むつ市]

2022.04.23 UP

風はどこからやってくる?15世紀に描かれたサンドロ・ボッティチェッリの絵画『ヴィーナスの誕生』では、ギリシャ神話に登場するゼフュロスの吹く風が、海から生まれたヴィーナスを浜辺へと送り届ける様子が描かれている。この古典絵画に向き合いながら、地球の未来への希望を見いだしたい。今、地球上で起こっている気候変動は自然の要因に加え、人間の社会活動も影響していることを自覚して。

ものがたり

絵画『ヴィーナスの誕生』

画家 サンドロ・ボッティチェッリ

作品のタイトルや描いた画家の名を知らなくても、この絵画をどこかで見かけたことがある人は多いだろう。イタリアの画家、サンドロ・ボッティチェッリによる『ヴィーナスの誕生』は、15世紀ルネサンス期のアイコン。テンペラという技法で描かれている。注目したいのは、ヴィーナスの足元の大きな貝殻だ。日本のホタテガイとは異なる種類で、ジェームズホタテガイという地中海に生息する食用の貝だそう。この名は、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂(1211年完成)に埋葬されている聖ジェームズにちなんでつけられたというから、歴史は深い。さすがにこの絵画に描かれている貝殻の大きさは画家による誇張だろうが、地球で最初の生命が海で生まれ、ホタテガイが豊穣の象徴とされることを考えると、より親しみがわく。

この絵画に描かれた背景を探ってみよう。
愛と美の女神、ヴィーナスが生まれたのは、ギリシャ神話の天空の神、ウラノスの去勢がきっかけ。ウラノスは、妻で大地の女神・ガイアの怒りにより、息子のクロノスによって、生殖器を切り落とされてしまう。このとき海に落ちた天の神の精子と海水が交わってできた泡から生まれたのがヴィーナスとされている。ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』に描かれているのはこの神話の一場面。西風の神ゼフュロスの吹く風が、貝殻に乗ったヴィーナスを浜辺まで運び、時の女神ホーラがヴィーナスを迎え入れる。ゼフュロスに抱かれているのは、妻で花の女神フローラ(大地の妖精クロリス)。ヴィーナスのシンボルともいわれるバラの花を咲かせてヴィーナスの誕生を祝福している。古代ローマ以降、初めて絵画史上に現れた全裸のヴィーナスは、少し憂いのある表情にみえる。首が長く、肩が極端に落ちていたりと、不自然な表現ながら、輪郭がはっきりと描かれており、曲線美や見た目の美しさが強調されているようだ。

ものがたり情報 絵画:

絵画:『ヴィーナスの誕生』(1485年頃) サイズ:172.5 cm x 278.5 cm
画家:サンドロ・ボッティチェッリ(1445-1510)
所蔵:ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ)

提供:Bridgeman Images/アフロ