海の幸の代表格でもあるホタテ。天然物は貴重で、私たちの食卓にのぼる多くは養殖物だ。むろん、目的は食べることにあり、貝殻は加工の過程で捨てられている。
そんなホタテの貝殻の資源価値に光をあてる人がいる。茅ヶ崎を拠点に置くレルムナチュレジャパンの鈴木典子さんもその一人。ホタテの貝殻をアップサイクルしたマルチパウダー「618 scallop powder」を企画開発し、使ってみてよかった！という自身の体験を伝える活動を広げている。

鈴木さんがホタテの貝殻に注目するようになったのは、5年ほど前。化粧品会社で働いていた当時、アトピーに悩み、肌にいいことをいろいろ調べていたという。そんな折、青森や北海道では洗剤の代わりにホタテパウダーが使われていることを知り、試してみることした。

すると、キッチンの油汚れは簡単に落ちるし、ペットが使うブランケットもつけ置きすれば、全然臭わない。さらに、お風呂のお湯に入れれば塩素除去もしてくれる。日々の暮らしに取り入れているうちに、気づけば、長年悩んでいた肌の悩みまで改善していた。自然のものだから環境に負荷をかけることはないし、使ったあとの水は排水管の汚れもきれいにしながら流れていってくれる。

「こんないいものをなんで捨てちゃうんだろう」
素朴な思いから、自身が実感した良さが伝わる製品を目指し、3年の月日をかけて、「618 scallop powder」を完成させた。商品名は、原料の産地である青森県で、6月18日が「ホタテの日」になっていることにちなんでいる。製造工程で機械に頼るのは最小限にとどめ、商品を詰める仕上げは地元のおばあちゃんたち。エコ便と呼ぶ紙パッケージは小学生たちが職業体験としてスタンプを押す。商品をつくるだけで終わらず、届けるまでに関わる人々、そして、買った人の手元に届いた先のことまで、自然と思いはつながっていく。

鈴木さんは、ホタテパウダーのユーザーを「ホタテフレンズ」と呼ぶ。 SNSなどを通じて、商品が口コミで広がっていく中、次第に環境のことに関心を持つ人が増えていることを感じているという。

「環境のために何かをするとなると、自分ごとにできないですよね。すべてが循環して自分のところに戻ってくるということを知って、だからあなたは何を選びますか？というところを伝えたいと思っています」

初心者にすすめているのは、ホタテパウダーでスプレーをつくること。掃除から除菌、消臭まで全部できてしまう優れものだ。便利な使い方をホタテフレンズたちとシェアしつつ、食器洗いの前に古紙で汚れを拭き取るなど、洗い方の基本を伝え、「美しく洗おう」と呼びかける。
「同じ思いの人たちと一緒に、ホタテで洗えるんだよというのをもっと広げていきたいですね」

聞けば、お話を伺った「サザンビーチ北原珈琲」でもホタテスプレーを掃除に使っているとのこと。入口には、マイクロプラスチックの回収BOXがあった。茅ヶ崎では、マイクロプラスチックウィークという期間が設けられ、協力店や参加する人が増えているのだとか。鈴木さんも散歩のついでによくマイクロプラスチックを拾う。30分も歩けば、小瓶がいっぱいになる。歩きながら、どんどん砂浜が狭くなっているのも感じているという。

海のそばで暮らす鈴木さんに、海から得られるインスピレーションを聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「地球って70％以上が海なんですよね。人間に限らず、この地球にいる生き物は全部50％以上が水と考えると、人間とか生き物って水の袋みたいなイメージで、そこが地球と似ているなと私は思うんですよ。そう考えると、人間が自然の一部であることを自覚できて、すごくほっとするんです」

お話を伺ったひと

鈴木典子さん
（レルムナチュレジャパン合同会社 COO／Marketer）
2019年に夫とともに会社設立。618scallop powderをはじめとした「水の循環」を整えるアイテムを企画・販売。自然と調和した暮らしのヒントを発信している。環境問題は人間問題であるという思いから、2020年からは環境問題の本質を捉え自分自身の暮らしを見直す為の「618ライフスタイルコンサルタント講座（618LSC）」をはじめとした学ぶ機会を提供する場所づくりにも意欲的に取り組んでいる。