海のレシピ project

Fukuoka

今ある資源ー未利用・低利用魚との向き合い方

[福岡県 福岡市]

2022.11.04 UP

ジャーナリストや料理人たちも海を取り巻く現状を熱心に追うようになっている昨今。海と私たちの食との間に立つ人々の想いから、「おいしい」の前後にある“現在”に触れてみよう。レシピでは、福岡の糸島や志賀島などで水揚げされる天然魚と未利用魚を、新鮮な状態で家庭に届けるミールパックのFishlle!(フィシュル)を活用したアレンジレシピをご紹介。

トピックス

「海の魚が大変な状況に」シェフたちと共に、海の実情を伝える

「Chefs for the Blue」代表理事 佐々木ひろこさん

スーパーマーケットにもレストランにも魚介類が豊富に取り揃えられ、“魚の国日本”を象徴しているかのように感じてしまい、実は1984年をピークに日本の漁獲量は下がり続けている。シェフと共に豊かな海と食文化を守る活動を行う「Chefs for the Blue」(シェフス フォー ザ ブルー)代表理事の佐々木ひろこさんに、活動の様子や私たちができることについて伺った。

長年レストランや生産現場などで取材を重ねてきたフードジャーナリストの佐々木さんは、2016年に関わった漁業に関する仕事をきっかけに海の異変に気づいた。「魚市場で話を聞くと『“今年は”獲れていない』という答えが返ってくるけれど、漁業の現場で話を聞くと『昔は獲れていたんだけれど、今はさっぱり獲れない』という人が多い。データを見ても多くが右肩下がり。研究者の話を聞き、漁業関連の国際会議に出席し、国内外の論文も読みました。そうして、日本海の魚が大変な状況になっていることを学んだんです」。

今の海はどんな様子なのだろうか。日本の水産資源管理は、欧米と比べるとスタートがかなり遅れているという。島国であり、世界に先駆け早くから漁業が発展してきた日本では、それぞれの地域で船舶の隻数・トン数の制限や、漁具、漁法、漁期などの制限など昔ながらの管理手法が根付いている。しかし、漁船の技術革新によって漁獲可能量が上がったり環境が大きく変わったりするなか、今までの管理方法では追いつかなくなり、その結果、資源を獲りすぎてしまっている地域も多いのだ。

危機感を募らせた佐々木さんは、これまでの活動の中で関係性を紡いできたシェフたちに相談すると、彼らも魚をめぐる環境が変化してきていることに気づき始めていた。1人でできることには限りがあると思った佐々木さんは、シェフたちの力を借りることに。レストランは一つのメディアであると考えて、発信力のある、影響力のある料理人たちに海の実情を語ってもらえれば社会の意識が変わり、状況が好転するだろうと思い、2017年に東京に店を構えるさまざまな分野のシェフ30人とともに海について知る勉強会をスタートさせた。翌年には一般社団法人として「Chefs for the Blue」を設立して活動を始めた。

シェフたちは海に関する有識者や水産現場の人の話を聞く機会を設けて、時には現場を訪ねて海についての学びを深めた。2017年11月に東京・青山の国連大学前で開催されたファーマーズマーケットでサステナブルシーフードを使った料理を提供したり、併設されているホールで一般向けトークセッションを行ったりと海の実情を知らせるイベントを行ったほか、シェフたちが資源を意識してメニューを構築するなど地道な活動を続けている。そして、昨年からは京都でもシェフたちがチームを作り、海のことを学び始めたところだ。

Chefs for the Blue京都のメディア向けイベントの様子

忙しい合間を縫ってシェフたちはなぜ熱心に取り組んでいるのだろうか。

「日本料理では出汁からして鰹節やいりこなどが使われているように、魚はなくてはならない食材です。他の分野の料理でも同様で、12皿のコースがあったとしたら肉はメインと前菜の1皿に使われるくらいで、残りは魚介と野菜で構成される皿です。シェフたちのアイデンティティをどう表現するかという点においても魚は欠かせない食材。さらに食を通じた社会貢献をしたいという強い思いもあって、彼らはこの活動に真剣に取り組んでいるのだと思います」と佐々木さんはその理由を語る。

2020年からコロナ禍になり、イベント開催が容易でなくなってからは、新しい取り組み「Fishell(フィシュル)」も。これは、未利用魚・低利用魚と呼ばれる、知られていないマイナーな魚種であったり、サイズが大きすぎ、量が少なすぎたりして流通に乗らない魚を使った惣菜を定期的に食卓に届けるという福岡市の株式会社ベンナーズが提供しているサービス。
「Chefs for the Blue」とコラボレーションし、高級ラインのレシピをシェフたちが開発した。魚は好きでもどう料理をして良いかわからないという消費者にとっては大変便利であり、先の理由から獲れても廃棄されたり、養殖魚の飼料向けなど低価格で取引されたりする未利用魚・低利用魚の存在を知らせるのに一役買っている。

佐々木さんは、日本の水産業のサプライチェーン全てをサステナブルな方向にしていきたいと考えている。

「生産から消費まで様々なレイヤーがあります。水産資源を守るためには、そこに関わる全員が理解しないと動くことができません。今後もし現場での漁獲制限をしていくことになったら、魚の単価が上がらないと水産流通は回りませんし、これまで馴染みだった魚の入荷が少なくなったら魚種を変えるなど、色々な工夫をしていかないといけない。消費者が変わらないと、流通も漁業者も変わりません」

そんな状況で私たちができることは何か。

「『Fishell』のような商品や認証魚を買ってみるのも一つですし、再生産ができるよう、卵を産む前の幼魚を買わないという選択も。資源管理に前向きな漁業者と、直販サイトでつながることもおすすめです。また、さまざまなメディアの情報から資源がまだ豊富な魚を探してみるとか、そういった情報に目を向けることも大切。ネットのビューが上がればメディアが取り上げる動機にもなりますから」

消費者の私たちにもさまざまな選択肢がある。
正しい情報に目を向け関心を持つ行動のひとつひとつが、流通に変化を起こす力となり、この先の食卓と豊かな海を守っていくことに繋がっていく。


文:久保田真理(ついたち)
写真:高村瑞穂

お話を伺ったひと

佐々木ひろこさん(Chefs for the Blue 代表理事/フードジャーナリスト)

日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、企業勤務ののちフリージャーナリストに転向。食文化やレストラン、食のサステナビリティ等をテーマに雑誌、新聞、ウェブサイト等に長く寄稿している。
ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。水産庁 水産政策審議会特別委員。

Chefs for the Blue
https://chefsfortheblue.jp