海のレシピ project

Sajima

タコは吸盤で“味わう”

[神奈川県 佐島]

2022.02.16 UP

小説家が食を言葉に綴るとき、読み手は必ず食欲を刺激される。五感を震わす作家・朝吹真理子のエッセイに登場した“パクチーたこ焼き”は、今すぐにでも作ってみたくなる一品だ。一年中手に入る食材でもある、タコ。身近な存在ゆえに、その生態を知るとまた違った見方ができてくる。私たち人間と頭足類タコの関係。あなたはどう捉えるだろうか。

トピックス

タコはイカの親戚

琉球大学理学部教授・池田譲さん

「スルメイカ」の回ではスルメイカが高い知性を持つことを紹介したが、タコもイカ並み、いやそれ以上に高い知性を持つ生き物だ。タコはイカと共に頭足類に属する。彼らはなぜ大きな頭と大きな目、そして8本の長い手足を持っているのだろうか。今回も、琉球大学で頭足類の行動学を研究している池田譲教授に話を聞いた。

頭、胴体、そして腕(足)の3つの部位で構成されている、頭足類のタコ。「タコ足」とも呼ぶが、足のように見えるその部分は、機能としては腕である。イカが胴体が長いのに対し、タコは腕が長い。イカにはプラスチックの板のような軟甲や炭酸カルシウムでできた甲が背中に入っており、体がまっすぐの状態を保っているが、タコはそれがない。そのため、グニャグニャと形を変えるように動く。またイカは遊泳性だが、タコは海底を這って生きる底生性である。

特に大きな違いのひとつに、腕についた吸盤があげられる。イカの吸盤はよく見るとギザギザ状の爪がついており、引っ掛けるように使われている。一方、タコのそれはその名の通り吸盤としての役割を担っており、物にギュッと吸着させることができる。また、体色が違うように思えるタコとイカだが、どちらも体色を変化させる機能を持っていることは共通点。体色を変化させる細胞器官が神経とつながっており、どちらも周囲の光や環境に紛れることができる。

イカは海中を泳ぎ、遠い距離も移動することは「スルメイカ」の項目で記した通りだが、タコは基本的に生まれた場所からあまり移動をすることがない。海底の岩など物陰に隠れ、その周辺で餌を取って暮らす。イカのように集団社会を作らずに生きると思われていたタコだが、「マダコは確かに単独行動です。しかし別の種類のタコで、オーストラリアの海で都市のように大きな村を作っていたという発表がありました。他にも、タコが集団で泳いでいるところを見たという人も……。まだまだわからないことは多いです」と池田教授は語る。

タコの「腕」は強靭な力を持つだけではなく、センサーとしての高い機能も持っている。
「タコの腕にある吸盤には、触覚と味覚もあります。人間は舌で味覚を感じますが、タコは吸盤である程度の味覚が判断できているようですね。触覚があるということはとても重要です。これまでの研究では、タコは視覚に大きく頼っていると思われてきました。あの大きな目はかなり解像度の高いレンズ眼なので視覚も使っていますが、あわせて触覚もかなり使っているようなんですね。たとえば物の形を把握させる実験をすると、初めて見た図形は判断しづらい。まずは触って、さらに見ることで情報を得ているんじゃないかと我々は考えています」

対象を認識し、判別することができるタコ。知性が高いにもかかわらず、イカと同様に寿命は1〜2年と短い。タコも賢さで生き抜く生き物なのだ。
「社会脳仮説という仮設説があります。同じ種類の仲間と相互交渉を行い、そこでうまくやれる個体は生き残っていくという仮設ですね。そしてそうやって生き残っていく個体の脳は、相互交渉がうまくできない個体に比べて、脳が少し大きい。社会が選択圧として働き、脳が大型化したという仮説です。この社会脳仮説はもともと猿など霊長類で言われていた話なんですが、私はこれはイカ・タコの頭足類にも当てはまると考えているんです」

わずかずつでも、人間のように相互交渉ができるようになっているタコ。人類が絶滅した未来の地球では、火星人のように脳と腕が発達した新たなタコが生きているかもしれないという説もある。高い知性を持つ生き物タコと、私たちはこれからどう共存していくべきなのだろうか。

<写真>
上段:ヒラオリダコ (撮影:川島 菫さん)
中段:左/ウデナガカクレダコ (撮影:池田 譲さん)
右/ウデナガクレダコ (撮影:川島 菫さん)
下段:ヒラオリダコ (撮影:川島 菫さん)

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トピックス:知性で生き抜くスルメイカに学ぶ(琉球大学理学部教授・池田譲さん)
https://uminorecipe.jp/articles/okinawa/nishiharacho/292

お話を伺ったひと

池田譲さん(琉球大学理学部教授)
1964年、大阪府生まれ。北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。スタンフォード大学、京都大学、理化学研究所などを経て琉球大学理学部教授。頭足類の社会性とコミュニケーション、自然誌、飼育学を研究。著書に『イカの心を探る–知の世界に生きる海の霊長類』(NHK books)、『タコの知性–その感覚と思考』(朝日新書)、『タコは海のスーパーインテリジェンス–海底の賢者が見せる驚異の知性』(DOJIN選書)など。