海のレシピ project

Kamakura

しらすが獲れる海の街

[神奈川県 鎌倉市]

2021.10.01 UP

山と海に囲まれている古都・鎌倉。都心からすぐに行ける海水浴場としての人気も高い。地元の人たちにとっては憩いの場であり、あちらこちらで漁が行われている大きな漁場でもある。人が集まる場所には生活がありドラマが生まれ続ける。映画『海街 diary』では、海の近くで暮らす人々の四季折々が描かれた。しらす丼にしらすトースト。友達と歩いた夏の海岸。その空気に触れたくて、鎌倉の海を訪れることにした。

トピックス

流れ着いた海洋ごみからのメッセージ

浜辺の収集家・オダジュンコさん

真夏の材木座海岸は朝6時でもすでに強く太陽に照らされ、潮が干いた浜辺はキラキラと輝いていた。サーフィンをする人や犬の散歩をする人、漁を終えたしらす漁船……。その風景のなか、波打ち際をひとり黙々と歩き続ける人がいた。鎌倉在住のオダジュンコさんは、ほぼ毎朝、時には夕方も、浜を端から端まで歩く。ここでのオダさんは、“浜辺の収集家”。プラスチックなど落ちているモノを拾い、アート作品に作り変える活動を行っている。

オダさんと一緒に浜を歩いてみる。小さくて丸い小石のようなものがあちこちに落ちているので手に取ると、「それがマイクロプラスチックですよ」とオダさん。マイクロプラスチックとは、プラスチックが粉砕されて5mm以下に小さくなったもの。一見すると小石か貝の破片かと間違えそうだ。波に揉まれても川に流されても、マイクロプラスチックが完全に消滅することはない。

オダさんがこの活動を始めたのは、勤務するアウトドア用品メーカー“パタゴニア”のインターンシップ制度を利用して、2007年にウミガメ調査のため屋久島に行ったことがきっかけだった。大きな台風が過ぎ去った後の屋久島の浜に行くと、海からのたくさんのごみが流れ着いていたという。日本だけじゃなく様々な陸地から漂流してきた、人間が出した生活の跡。「私、もともと物を拾う癖があったんです(笑)。綺麗なものはみんな拾うけど、プラスチックは私も含め誰も拾わないな、それなら拾ってみようかなと思って拾い始めたんですよね」と笑う。

こうして集めたごみは、同じ色でまとめて紐でつないだりと、ちょっとした工夫で素敵な飾りやアート作品に生まれ変わる。親子で参加できるワークショップも開催しているが、オダさんにとってはそこでアートを作ることが目的ではない。
「子どもたちに教育したいとか、プラスチックは使っちゃいけないって言いたいわけじゃないんです。ただ、自分たちが生活の中で出したものってどうなっていくんだろう、どんな経路で浜辺に戻ったんだろうかって、少しでも感覚で捉えてもらえたら嬉しいなって」

この海岸を訪れた人ならきっと気づくことがある。砂浜に長い線を引いたように、海からの漂流物が延々と打ち上がっているのだ。しかしオダさんはそれをごみとは呼ばない。
「浜は何層にも重なっているので、台風で浜が削れると下にあった古い時代の物が出てきたりして面白いんですよ。それも拾って気づくことのひとつです。ごみだからとただ処理する前に、その一つ手前で考えてもらえたらいいですよね」

オダさんはこの夏、仲間と4人で合同会社 mirakan(未来環境創造部)を立ち上げた。気候変動や食にまつわる問題意識を広めたり、環境についての映画を上映したりと、様々な活動をスピーディにしていきたいと語る。地球規模で起こっている問題を、ちょっぴりでも自分ごととして考えてもらえたらーー。オダさんの心の声が伝わってきた気がした。

お話しを伺ったひと:
オダジュンコさん(パタゴニア勤務、浜辺の収集家)
パタゴニア に勤務。日々海岸でビーチプラスティックを中心に海の漂着物を拾っている。拾ったプラスティックをごみと思わずアートに変換し作品を制作。作品展示のほか、海から漂って流れ着くビーチプラスティックを使って、ゆらゆらと揺れるシンプルなモビール作りワークショップを、学校やパタゴニアが参加するイベントなどで開催し、心で感じる環境メッセージを発信する活動を続けている。

写真:高村瑞穂