海のレシピ project

Kamakura

しらすが獲れる海の街

[神奈川県 鎌倉市]

2021.10.01 UP

山と海に囲まれている古都・鎌倉。都心からすぐに行ける海水浴場としての人気も高い。地元の人たちにとっては憩いの場であり、あちらこちらで漁が行われている大きな漁場でもある。人が集まる場所には生活がありドラマが生まれ続ける。映画『海街 diary』では、海の近くで暮らす人々の四季折々が描かれた。しらす丼にしらすトースト。友達と歩いた夏の海岸。その空気に触れたくて、鎌倉の海を訪れることにした。

ものがたり

映画『海街diary』

監督・脚本:是枝裕和

「すずちゃん、鎌倉に来ない?」

すずに鎌倉に一緒に住むよう誘う長女・幸

鎌倉の趣ある日本家屋に住む、香田幸、佳乃、千佳の三姉妹。13歳の異母妹である浅野すずを家族として迎え入れ、共に紡ぐ生活を四季を追うように映し出した映画『海街diary』。吉田秋生の同名コミックを原作に、『誰も知らない』や『万引き家族』などの是枝裕和が実写映画化した作品だ。四姉妹と、彼女たちを取り巻く職場や地域の人々の生活。四季折々の鎌倉の風景と、そこで暮らす人々の飾らない表情が、市井の人々にも日々ドラマがあることを教えてくれる。

妻と娘を置いて出ていった香田家の父が、山形で亡くなった。葬儀のため山形を訪れた三姉妹は、自分たちの異母妹にあたるすずという中学生の女の子に出会う。義母に代わって父の看病をしていたすず。その寂しそうな表情に何かを感じ取った幸は、「一緒に暮らさない?」とすずに提案する。すずが「行きます」と即答したことで、三姉妹改め四姉妹での鎌倉の生活が始まった。

「うわ!重い!」

しらすの入ったバケツを持ったすず

ある日の休日。すずはサッカーチームの仲間と共に、しらす漁を営んでいるチームメイトの家の手伝いに向かう。獲れたばかりのしらすが入った大きなバケツを漁船から運び出し、さらには茹でたばかりのしらすの粗熱を取るという、大切な作業を任された。木枠に茹でたてのしらすを広げ、立ち上る湯気に驚きながらも真剣な表情。俳優たちの興奮までもが伝わってくるシーンだ。

「生シラスなんか他では食べれないかんね」

しらす丼を食べたすずに向かって、次女・佳乃

お土産にもらったしらすは早速、香田家の食卓に上った。生しらすと釜揚げしらすをたっぷりのせた、しらす丼。一口食べて「おいしい!」と言うすずに、三人の姉が「でしょ」と微笑む。「(しらす丼は)初めて?」と聞かれ、咄嗟に頷くすず。本当は、初めてではなかったのだけれど。

かつて鎌倉で暮らしていた亡き父。父は自分に鎌倉のしらす料理を作ってくれていた。父の話を遠慮していたすずだったが、しらすの思い出をきっかけに父について話せるようになる。両親をどこか恨んでいる幸、父に何の感情も持てない佳乃、父の記憶がない千佳。そして、父との思い出がたくさんある末妹のすず。家族になったからといって感情の差は急には埋まらない。季節が移ろうように、四人のかたちも自然に変化していくのだろう。変わるものもあれば、変わらないものもある。姉妹に起こる変化と成長、そしていつもそこにある海。どの風景も宝物のように感じられる作品だ。

ものがたり情報

海街diary
Blu-rayスタンダード・エディション:¥5,280(税込)
DVDスタンダード・エディション:¥4,180(税込)
発売元:フジテレビジョン/販売元:ポニーキャニオン
(C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

写真集 「海街diary」瀧本幹也Umimachi Diary Mikiya Takimoto(青幻舎)
定価:3,520円(本体3,200円)※在庫切れ
寄稿:是枝裕和(映画監督)
アートディレクション:森本千絵

写真:高村瑞穂