海のレシピ project

Hayama

にぎわいの港町に並ぶ、素潜り漁のサザエ

[神奈川県 葉山町]

2022.09.13 UP

家族で訪れた海、友人と遊びに行った海、ひとりでのんびり佇んだ海など、思い入れのある海を持つ人もいるだろう。国内外で旅や滞在を続けながら、⽣命の根源的な輝きをテーマに作品を制作しているアーティスト後藤朋美さんにとっての大切な海は、葉山。「トピックス」ではその葉山の自慢の食が並ぶ朝市を訪れ、サザエなどの魚介類や新鮮な地元の野菜などを買いに出かけた。「レシピ」ではサザエを使ったオイル煮を紹介する。

ものがたり

アートは生きる力  

アーティスト・後藤朋美 インタビュー

生きていく過程で、私たちは思いもよらない困難に出合う。自然災害や愛するものとの別れ‥‥‥。アーティスト・後藤朋美さんは、そうしたあらがうことのできない出来事を真摯に受け入れ、アートを通して「生命」と向き合い表現する。モチーフの一つに「海」を扱う後藤さんに、青山・スパイラルガーデン(スパイラル1F)で展示した作品のことや、海への思いを伺った。



今ここで、「触れることができる間に」

――2022年8月に開催の「海の森、海のいま展」で展示した作品は、氷に映像が投影されその氷を通した光と映像が壁に像を写すインスタレーションです。最初にこの作品が生まれた経緯を教えてください。

同様の作品を最初につくったのは2017年でした。そのときのタイトルは《FROM》。その後、2019年にタイトルを変えて《触れることができる間に》を発表しました。これは氷がメタファーとなり、「形態は変わり続けながら、存在そのものは変わらずに在るもの。変わり続けることによる不変の表れ」を考察する作品です。

――2019年にタイトルが変わったのはなぜでしょうか。

《触れることができる間に》は2018年に起きた個人的な出来事が大きく影響しています。それは私の父と、長年連れ添ってくれた愛猫の健康状態がきっかけでした。それによって「本質的な治癒とは何か」という問いを与えられ、そこに向き合うことになりました。改めて自然の一部として私たちの身体を捉えた時に、どう私たちは最期を迎え、どう生きるのか。

そして《FROM》の時には意識や魂のメタファーとしての氷が、身体のメタファーとしてよりフォーカスされることとなりました。氷は固体、液体、気体と変化しながら分子そのものは変わらないように、状態は変化しつづけながら自然界を循環しています。また、私は時間感覚があまりない人なので「今」を基軸に意識は「過去」「未来」を自由に横断できる感覚でいましたが、どうやら身体という物質性自体が私に有限で不可逆な時間を感じさせてくれていたのだということをしみじみ感じたのです。

触れることができる間に、私たちは愛するものや大切な存在と、どう自分自身の生命を生きていくことができるのだろうか。奇しくもコロナ禍で有機的な触れ合いの重要性は、自身にとっても大きく感じられるものとなり、氷のインスタレーションは深いところに自分を連れていってくれるものとなりました。

つながる海

――海というモチーフにはいつ頃から取り組まれているのでしょうか。共通しているテーマなどありましたら教えてください。

制作を始めて初期につくったのがドーム型の作品《You are my hope, you are your hope》です。この作品はライフワークで「生命の根源的な輝き」がテーマになっています。

©Tomomi Goto

私の故郷は、海よりも山に近い地域でしたが、なぜか海は原風景でもありました。青い空と入江があって、白い壁の家がある。地中海のような風景が、幼い頃から思い出す生まれた場所とは違う懐かしい場所としてありました。

ただ、海と対峙するきっかけになったのは2005年にスペインのEl Camino de Santiago(カミーノ・デ・サンティアゴの道)を歩いて辿り着いた大西洋の海と、2011年の東日本大震災でした。東日本大震災の時は2011年の秋に現地に行き、幼稚園や保育園で子供たちと一緒に身体を動かしたりしていました。
 
しばらくして2014年から各地を訪れて海水を組み始めました。始めは塩竈市に在住のお世話になっている方と東松島市にある奥松島縄文村歴史資料館で、縄文式土器を自分で作り、浜で海水を煮詰めるという古来の塩作りで製塩をしました。

各地で出会った方に海や塩にまつわるいろいろな話を聞きながら、ご縁をいただいた場所で海水を汲み、製塩をしながら、「空と海の間には何があるのだろうか」と思いながら、その青の間(あわい)を眺めていました。


作品を通して、海という「愛」をつむいでいく

――その塩づくりが、作品につながったのでしょうか。

製塩した塩が砂時計の容器に入っている《塩の時計》(2014年〜)をつくりました。塩がキラキラと降りていく様が何もなくなってしまったように見える場所に山ができていくようにも見える。想像もしていなかったことや哀しい出来事があると人は時間が止まったように感じることがありますよね。その止まってしまったように感じる時間をその人自身の手で動かすように、時間がまた進むときが来るといいなという祈りのようなものになりました。

©Tomomi Goto


――そこから《FROM》や《触れることができる間に》へとつながっていくのですね。

東北以降も沖縄や葉山など、縁があって訪れる場所で、塩の時計を作り続けていました。その頃住んでいた場所から一番近い海だった葉山の海は約1年に一度訪れていました。一色海岸の黄金色の夕陽を見るのが好きで、海に花を手向けたりもしていました。

実は2011年以後、海から拒絶されているような感覚があったのですが、2017年に葉山を訪れた時に海が受け入れてくれたと感じる瞬間があって、私にとっては思い出深い特別な場所の一つです。そこで夕暮れ時の太陽の光が波打ち際まで続く海の時間の映像を撮り、氷のインスタレーションが生まれました。

――後藤さんにとって、海とはどのようなものでしょうか。改めていま、どのように思われますか。

難しい質問ですね。海はいずれ帰るところ。「おかえり」といってくれるようなところ。
恥ずかしくてすぐには言えなかったけれど、最初に浮かんだ言葉は「愛」かもしれません。

お話を伺ったひと

後藤朋美(ごとう・ともみ)
国内外の旅や滞在を経て作品を制作。近年の展示に、「Art meets 07」(アーツ前橋、2022年)、個展「触れることができる間に」(Ya-gins、2019年)、「表現の生態系 ‒世界との関係をつくりかえる-」(アーツ前橋、2019年)、個展「Platinum」(Gallery Trax、2010年)。主なワークショップに「注ぐ・放つ・希望の光」(群馬県立近代美術館、2019年)、「音の花束 20周年関連ワークショップ」(東京都現代美術館、2015年)など。廣瀬智央とともに前橋の母子生活支援施設のぞみの家と19年にわたるプロジェクトを継続している。Webサイトはこちら

インフォメーション

後藤さんが参加する2人展「Art Meets 07」が群馬県前橋市の中心市街地にある「アーツ前橋」にて2022年10月26日まで開催中。

「氷のインスタレーション」を展示した、海のいまを語り合うイベント「海の森、海のいま展 ー海のレシピプロジェクトと新たな航海のはじまりー」のレポート記事はこちら



写真(氷のインスタレーション、プロフィール):高村瑞穂