かき船文化の記憶を探して
[大阪府 大阪市]
2023.05.28 UP
『抄本 おむすびの味』(1954年/創元社)で知られる大阪出身の随筆家・岡部伊都子が、日常の手料理と自身の思い出を軽快な言葉で紡いだ『伊都子の食卓』。当時の大阪に漂った、風情ある描写に引き寄せられて繁華街・道頓堀へ。ここで巡り合った“大阪のおっちゃん”が伝えてくれたのは、かき船浮かぶ華やいだ道頓堀川の歴史文化の色濃い記憶だった。
レシピ
広島でカキの養殖が始まったのは、江戸時代初期といわれている。『伊都子の食卓』にも登場する「かき舟」は、広島で育てたカキを船で大阪市中の川へと運び、そのまま係留してカキ料理を提供した屋形船。川が汚れたり埋め立てられて環境が変化する昭和の初め頃までは、大阪では晩秋から冬の風物詩であった。
広島のカキは、殻が薄めで細長い真ガキが主流。夏から秋は産卵で栄養分を放出してしまうため、再びうまみを蓄えた10月から2月が旬とされる。大阪の川がかき船で賑わったのもこの時季だ。
ふっくらとした旬のカキをおいしく味わうためには、ひだに隠れた汚れを塩水でやさしく丁寧に落とすことと、火を通しすぎないことが肝要。今回の炊き込みご飯も、カキを米に炊き込むのではなく、調味した一番出汁で程よく煮たものを後から混ぜて仕上げる。カキのうまみ豊かな煮汁が米の芯まで染み込むように、米の水気はしっかりと切り、煮汁は完全に冷ましてから加えて炊こう。
<参考資料>
公益財団法人福武財団Website
「カキ船」の記憶と系譜に関する民俗学的研究/関西学院大学社会学部 島村恭則
材料(3~4人分)
米2合/カキ(むき身)200g/醤油 小さじ1/油揚げ 1枚(40g)/三つ葉 1束/生姜(薄切り)2~3枚/一番出汁 400㎖(※下記参照)/酒 大さじ2/淡口醤油 大さじ1 1/2/みりん 小さじ1/生姜(薄切り)2~3枚
■一番出汁のとり方
1)鍋に水500㎖と昆布8gを入れて3時間以上おく。
2)弱火にかけ、水面から湯気が立ってきたら味をみて、うまみが出ていれば昆布を取り出す(うまみが十分に出ていないようなら、沸かさないように弱火でしばらく煮出す)。
3)中火にして一煮立ちさせ、火を止めて鰹節10gを加える。鰹節が沈んできたらアクを取り、ぬらしたキッチンペーパー(またはさらしの布巾)を敷いたざるで濾す。
手順
1)米は洗って40分ほど水につける。ざるに上げ、表面が乾かないようにラップをかけて水気をよくきる。
2)ボウルに塩水(分量外)をたっぷり張ってカキを入れ、ひだの部分をやさしくもみながら汚れを落とし、ざるに上げる。これをあと2回くり返し、ペーパータオルで水気をきれいに拭く。醤油を回しかけ、下味をつける。
3)油揚げは熱湯で3分ほどゆでて油抜きをする。取り出して粗熱を取り、水気を絞ってみじん切りにする。三つ葉は1㎝長さに切る。
4)分量の一番だしと酒、淡口醤油、みりん、しょうがを入れて中火にかけ、フツフツとしてきたら、2)のカキを汁ごと加えて火を弱める。カキがぶっくりとふくれたら、カキと煮汁に分け、生姜を除く。煮汁はボウルに入れて氷水に当てるなどして、完全に冷ます。
5)鍋に1)の米と2)の油揚げを入れ、4)の煮汁を400㎖計って加える。中火にかけ、沸騰してきたら弱火にし12分ほど炊く(炊飯器で炊いてもよい)。炊き上がったらすぐに4)のカキをのせて10分ほど蒸らし、三つ葉を加えてさっくりと混ぜる。
料理を担当したひと:
大黒谷寿恵(寿家主宰)
石川県金沢市出身。大学卒業後、料理の世界へ。2006年kurkku cafeのディレクター兼料理長に就任。独立後は講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行う。2009年より鎌倉で料理教室「寿家」を開業。野菜や日本の伝統食材を用いた料理を得意とする。2015年に「にほんのごはん」のサイトを立ち上げる。共著に『和サラダ/和マリネ』(エイ出版)がある。
文:奈良結子
写真:高村瑞穂