海のレシピ project

Fukuoka

今ある資源ー未利用・低利用魚との向き合い方

[福岡県 福岡市]

2022.11.04 UP

ジャーナリストや料理人たちも海を取り巻く現状を熱心に追うようになっている昨今。海と私たちの食との間に立つ人々の想いから、「おいしい」の前後にある“現在”に触れてみよう。レシピでは、福岡の糸島や志賀島などで水揚げされる天然魚と未利用魚を、新鮮な状態で家庭に届けるミールパックのFishlle!(フィシュル)を活用したアレンジレシピをご紹介。

ものがたり

『食の未来のためのフィールドノート・下「第三の皿」をめざして: 海と種子』

ダン・バーバー著 小坂恵理訳

フードジャーナリストの佐々木ひろこさんは日本の水産資源の管理方法について疑問を持ち、課題を解決したいと知り合いのシェフたちに呼びかけて一般社団法人Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)を立ち上げた。

「海の魚が大変な状況に」シェフたちと共に、海の実情を伝える:「Chefs for the Blue」代表理事 佐々木ひろこさん

長年メディアに関わってきたのに、日本の海の現状を知らず、読者にそれを伝えてこなかったことに対して自責の念が生じた。メディアとしての役割が果たせていないと感じた時、思い出したのがアメリカで暮らしていた時に手にしたこの『食の未来のためのフィールドノート・下「第三の皿」をめざして:海と種子』だった。

著者は、アメリカ・ニューヨークに2店舗のレストランを持つ、シェフのダン・バーバー。「ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)」を掲げて食材へのこだわりを追求した料理を出し、食や農業に関する活動家としても知られている。この本の第3部では、彼自身のレストランでの大失敗や、持続可能な食の実現に向けて取り組む人たちとの交流などが綴られている。

本著の最初に出てくるレストランでの大失敗は、海の現状に対してまだまだ関心の低い日本人に強烈な印象を残すエピソードだ。ダン・バーバーのレストランにグルメ誌のグループが訪れた時、自信満々で地元産クロマグロを出すと、添えた野菜には手をつけながらもマグロには全く手をつけずに皿が厨房に戻されたことがあった。

シェフとシーフードの持続可能性の関わりについての記事を書こうとしていたグルメ誌のメンバーからすると、絶滅の危機に瀕したクロマグロが出されるなんて言語道断。持続可能性を掲げて、古いレタスの種を復活させておきながらこのような失態をおかしてしまったダン・バーバーは、これを機に、海の現状と向き合おうとしなかった償いをしていくことを心に誓ったのだった。

そして、ダン・バーバーは、食べた途端に食に向き合う姿勢が永遠に変わってしまった経験として、スペイン・イベリア半島で出会った人物とそこでの出来事を紹介する。その人物とは、ジブラルタル海峡に近い場所にある小さなレストラン「アポニエンテ」のオーナーで「海のシェフ」とも呼ばれるアンヘル・レオン。彼が生み出す独創的な調理法とその成果に驚かされたという。

アンヘルは海を表現したいと、植物プランクトンを使った自家製パンを供する。海を表現するのになぜ植物プランクトンを?と思う人がいるかもしれない。アンヘルは、「ここには海がある。海の大切な成分、生命の起源が含まれているから」と説明する。生命の起源から料理をすることで、これがなければ生命は存在しないことを分かってほしいという思いが込められているのだ。

本質に切り込む方法はこれ以外にも。キズのない魚へのこだわりがキズモノの魚の価値を下げてしまうという現実を前に、魚にキズがあるのは当然と思っているアンヘル。彼は、キズモノの魚を購入して美味しい料理を作るのがシェフの役目であるとし、傷んでいたアジは押しつぶして海苔で巻き、レモンキャビアを添えてダン・バーバーにサーブした。

アンヘルのメニューには、多くの人が注目もしないような魚を使った料理が並んでいる。このような行動を取るのは、漁師が獲った名もない魚の多くが海に戻されてしまうまた別の現実があり、アンヘルがこうした魚にもお金を払う価値があることを示そうとしたからだ。さらには、混獲によって網を引き上げる際に頭の部分が切り落とされてしまった車エビを利用したビスクも。状態がひどくてもすりつぶして裏ごしすれば、洗練されたスープになることをアンヘルは行動で示してくれた。

アンヘルとの出会いに始まり、持続可能な食に向き合うようになったダン・バーバー。その土地の環境も文化も破壊しない食のあり方とは何かを探りながら生み出される料理は、食した人にこれまでに気づかなかったことへ意識を向けさせ、今の食のシステムに変化を引き起こし、新しい倫理を生む。レストランは世の中に変化をもたらす力強いメディアであるという希望で、この本を読みながら心が満たされていく。

文:久保田真理(ついたち)
写真:高村瑞穂

ものがたり情報

『食の未来のためのフィールドノート・下「第三の皿」をめざして:海と種子』(NTT出版)
ダン・バーバー著 小坂恵理訳
出版年:2015年