海のレシピ project

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都へ運ぶ陸の道、鯖街道

[福井県 小浜市]

2022.01.17 UP

福井県若狭と京都を結ぶ諸街道は、古くから主に海産物を京都へ運ぶための物流ルートで、中でも特に鯖が多かったことから、近年になって鯖街道と呼ばれるようになった。「京は遠ても十八里」といわれるように、若狭と京都は遠いようで近い。街道は文化交流の道でもあった。劇作家つかこうへいによる未完の戯曲にも描かれた鯖街道の歴史を探る。

ものがたり

『鯖街道』

ものがたり 『鯖街道』 つかこうへい

「鯖街道」は、福井県の若狭に位置する小浜と京都をつなぐ街道群の通称だ。「鯖街道」はまた、劇作家つかこうへい(1948-2010)の未発表作品だった小説・戯曲のタイトルでもある。この作品は、つかの没後翌年に文芸誌に掲載された後、書籍が刊行された。

小浜でとれた鯖に塩をふって京都へ運ぶ鯖担ぎの様子や、一昼夜かかって鯖が京都に届くころには芳醇な味わいを醸しだすこと、冬の鯖が格別においしいこと、そして険しく過酷な峠道についても細かに描写されている。一介の鯖担ぎから財閥の長にまで成り上がった父親と従順でありながらやがて背き逆らう息子とその妻らが複雑に絡み合うストーリーが展開するこの小説の時代背景は、時の首相犬養毅が暗殺された五・一五事件の1932(昭和7)年だ。戯曲では、老いた劇団座長と息子、女優らによる奇妙な関係が描かれている。

つかは生前、鯖街道の取材を重ねていたそうだが、はたして、鯖街道になにを見ていたのだろう。演劇評論家の河野孝は、本作を「時代の激動期を背景に描く歴史的ロマンになったと思われる」と同書に収録されている解説で述べている。

大学在学中に演劇活動を開始したつかは、1974年に戯曲『熱海殺人事件』で岸田國士戯曲賞を当時最年少の25歳で受賞、1982年には小説『蒲田行進曲』で直木賞を受賞している。1970年代から80年代に若者からの支持を得る一方で、創設した劇団からは、多くの人気俳優を輩出。プロデュース公演においても精力的な活動を続け、作品は映画の原作にもなった。

もともとこの作品は、1997年に開場した新国立劇場(東京・初台)の開場記念公演として企画されたのだが、実際は過去作品(「銀ちゃんが逝く」)が上演されたのだった。
「毒針のような台詞とたたみかけるようなスピード感溢れる演出で、弱い立場の人間の中に渦巻く感情をえぐり出した」(NHKアーカイブス・人物録より)つかこうへい。彼にとって「鯖街道」とは何だったのだろう。

(受賞歴、活動記録等は、つかこうへい事務所のウェブサイトを参照しました)

ものがたり情報

鯖街道 未発表作 つかこうへい(トレンドシェア)
出版年:2011年

写真:高村瑞穂