海のレシピ project

8.12 表参道Spiral「海の森、海のいま展」にて

『海の時間と私たちの時間─ハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」の旅から─』トークイベントを開催しました!

2022.08.30 UP

「食」と「ものがたり」を通して海を伝えるウェブメディア「海のレシピプロジェクト」を運営する海のレシピプロジェクト実行委員会は、表参道スパイラルガーデン(スパイラル1F)にて開催された『海の森、海のいま展 ー海のレシピプロジェクトと新たな航海のはじまりー』にて、最終日の8月12日(金)、ハワイ伝統航海カヌー「ホクレア」クルーの内野加奈子さんをお迎えし、『海の時間と私たちの時間─ハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」の旅から─』と題したトークイベントを開催しました。
今回の展示は、都会で海と繋がれる場所をテーマとし、海のいまを語り合う時間を設け、普段忙しくしている私たちの日常をもう一度見つめ直すことを目的としたイベントです。
また本イベントは、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

イベント概要
日時 2022年8月12日(金) 18:30 ~ 20:00
開催場所 表参道Spiral Garden  東京都港区南青山5-6-23 スパイラル1F
主催:海のレシピプロジェクト実行委員会​​
参加者: 50名(満席)

プログラム
[ゲスト]
内野加奈子(ハワイ伝統航海カヌーホクレア クルー)
[プログラム]
■主催者挨拶(海のレシピプロジェクトディレクター 青木佑子)、登壇者ご紹介
■本展示 海の森、海のいま展について 青木より
■内野さんによるプレゼンテーション
■stillwaterメンバーと内野さんによるトークセッション
■質疑応答
■記念撮影


登壇者
ホクレアクルー 内野加奈子さん
stillwaterメンバー
・青木佑子(海のレシピプロジェクト ディレクター)
・白石宏子(司会進行)
・玉置純子

●ホクレアはハワイのカヌー文化のお母さん。海と人とのつながりを再生してくれた
冒頭は、日本ではあまり馴染みのないホクレアについて、ホクレアクルーの内野さんに説明していただきました。内野さんによると、ホクレアのホクはハワイの言葉で星、レアは喜びを指しており、ホクレアとは「喜びの星」という意味なんだそう。​​またハワイの真上を通るうしかい座の1等星アークトゥルスの別名でもあり、それにちなんだ名前でもあるそうです。二つ並んだ20メートル程のカヌーの間にデッキが張られ、マストがある構造で、エンジンなしで風だけを動力に進みます。大海原にポツンとあるハワイという島に、どうやって人々はたどり着いたのか?その疑問を解決するべく、再現したカヌーがホクレアなのだと内野さんは解説してくれました。失われかけていた海を渡る技術が、ホクレアを通して子ども達に受け継がれ、現在ハワイではホクレアを知らない人はいないほどになったといいます。海と人とのつながりの再生、そのシンボルになっているのがホクレアなのです。

●過酷な赤道を抜けて、肌で感じた地球の営み
次に、無事航海を終えて日本に帰ってきた内野さんが、大海原から受け取ってきたメッセージを、旅を振り返りながらお話いただきました。
航海のなかでも、最も印象的だったのは赤道だったといいます。赤道には無風帯と言われる風が全く吹かない場所があるため、そこをどうやって抜けていくかというのは大きなチャレンジ。内野さんは「この場所を通る際、海への感謝を強く感じた」と語ります。
「ものすごい規模の空気がここで太陽の熱で温められ上昇し、上空で南北に流れて、大いなる大気の循環が生み出されるという、地球の大きなエンジンのような場所だった。ホクレアでの旅を通じて、海がとてつもない規模の仕事を絶え間なく続けてくれているんだということを知った。人間がどんなに力を合わせてもこの規模の仕事はできないということを思い知らされた。海という存在がなかったら、生命そのものが地球という星に存在できなかった。その仕事を見せてもらった」。このお話を聞いて、「陸上に生きていると全て世界がここでできているかのような気持ちになるが、海にも同じだけの営みがあると内野さんの言葉を通して知った。私たちが陸上にいるとわからない景色を、内野さんを通して見せてくれることが尊い」と、司会の白石は話しました。内野さんの航海の話には、人生のヒントになる話が詰め込まれてました。

●五感は、自然と触れ合うことで研ぎ澄まさせる
後半は、本展示企画運営を行うstillwaterのメンバーと共にトークセッションを行いました。
最初のテーマは、海の上での五感の使い方について。海の上ではいろんな自然のサインを受け取るため、五感をフル稼働する必要があるといいます。一見難しそうに聞こえますが、内野さんによると本来それは誰しもが持っている感覚なんだそう。特別なトレーニングをするというよりは、海と空という極限までシンプルになった世界に身を置くことで、その感覚が自然と開いていくそうです。その感覚のまま都会に来ると、海と比べ物にならないくらいの情報量に疲れてしまう。だから都会の人は、無意識に感覚を閉じてしまっているのだと内野さんは話しました。
司会の白石は、「美味しいや美しいという感覚は、自然と同じだけの力を持っている。それを都会で海と繋がることができるこの場所で、皆さんに伝えられたらいいな」と、改めてこの展示の意義について話しました。

●太平洋はホーム!海があってこその自分の世界
続いて、内野さんがホクレアに挑戦する理由について語りました。内野さんがホクレアに再び乗ることをまだ決意していなかった4年前、日本にいた内野さんはすごく窮屈そうに見えたと玉置は話しました。内野さんはその時、「ハワイに行くことを迷っていた」と言います。「地理的には日本はハワイよりずっと大きくて、新しい出会いもたくさんあったのですが、ハワイに戻った時、やはり自分の世界は海を含んでこそのもので太平洋全体がホームなのだと気がつきました。」と内野さんは語りました。

内野さんのお話をうけて司会の白石は「海と波長を合わせる方法(=チューニング)の1つは食べること」だと話しました。海は日本の食文化と直結しており、海を守ることは、日本人にとっては食文化を守ることにもつながるのだと。またディレクターの青木は、作ったものをみんなと共有する時間が自分のチューニングで、「この展示会場の中でも来てくださった皆さんと語り合う時間を作ることを意識していた」と話しました。

●海の上で11人での共同生活。大切な暗黙の5つの信頼とは
トークセッションの後半では「信頼」という言葉をテーマに、海の上での生活について語り合いました。
内野さんは、「自分たちがカヌーの上でお互いとどう向き合うかを大切にした」といいます。カヌーの中にプライバシーはほぼありません。極限まで疲れることもある中で、「互いの気遣いある向き合い方が、カヌーの上の空気を優しくさせる」と内野さんは語りました。その穏やかさからか、集団生活をしている感覚はあまりなかったそうです。
「何やら海の上では暗黙の5つの信頼があるとか」と白石が切り出すと内野さんは、「キャプテンから出発前にそれを伝えられた」と教えてくださいました。
5つの信頼の、一つ目は、海や空などの自然への信頼。二つ目は、カヌーへの信頼。三つ目は、師匠、教え、学びへの信頼。四つ目は、仲間への信頼。そして最後は、自分自身への信頼。

仲間への信頼を先ほどお話ししていただいたので、今度は自分自身への信頼について聞きました。自分自身への信頼を試されることはあまりないですが、「自分自身を知ることが、本当の意味でのナビゲーションにすごく大事だ」と内野さんは言います。さらに、「大自然の中にいるので一見外に意識が向いていくのかと思うけど、実は限りなく内側にベクトルが向いていく旅だ」とも語りました。続いて海への信頼について。内野さんは、ハワイにいる時365日ずっと海と隣り合わせの生活で、入らなくても最低限海に触るという生活を10年していたそうです。それが元になっているのかは分からないけど、海に対しての信頼感がとてもあり、「何が起こっても、海がそれを選ぶなら信じる、くらいの信頼感。陸ではなかなかできない委ねるという感覚を、海に対して自然に持つことができた。そういう意味での恐怖はあまりなかった」と話しました。

●変化を続ける海へ 私たちができること
最後に、ホクレアで旅をしてきた内野さんから、私たちへメッセージをもらいました。
内野さんがホクレアに乗り始めて20年、その間に海はものすごい変化を遂げたと言います。それはもう、私たちが自然を変化させてしまっていた立場から、変わっていく自然に対して私たちが変化しなければならない時代に入ったのではないかと。
今回海のレシピプロジェクトは、海に生かされてきた私たちが、どうしたら海に恩返しできるんだろうということを考えて展示を作りました。都会に住んでいると時間を切り刻んで生きてしまうから、内野さんがシェアしてくれたような海に流れる感覚を一人一人が取り戻さなければならないと、強く感じます。最後に司会の白石が、「一人一人がどうやって変わったらいいのか」と質問すると、内野さんはこう語りました。「今日この場所に来る時、たまたまビルの間から雲が目に入ってきた。その時、航海で無風地帯を通った時のことを思い出した。どこからどこまでが海かという境がなくなる感覚があり、海も空もすべて海なんだ、と思った。水が巡り巡って地球という大いなる水球を作っている感覚がすごくあった。だから、ビルの間の雲を見たとき、あの雲もたった2ヶ月前私が見たあの大海原とひとつだと感じ、胸が熱くなった。街の中にいても海と繋がる感覚を持つことはできる。私たちはものすごい奇跡の中に生きているのだと、ふとした瞬間に思い出して、それを忘れないようにしてほしい。今どこに私たちが生きているのか、リアルな感覚を常に持っていてほしい」。

内野さんから都会に住む私たちに向けて、大切なメッセージをいただきました。この十日間で来てくださった来場者の皆さん、ゲストの皆さん、アーティストの皆さんと感じたことを忘れることなく、海のレシピプロジェクトとして大切に伝えていきたい。そう強く感じました。

●参加者からの声
・海〜生活〜人生とつながる世界が味わえました。自分の生活に生かしつつ空と海を見ます。
・5つの信頼‼︎とっても勉強になりました!
・内野さんのお話で雲も海というのが共感できました。都会にいても風や雲、空を感じて海とのつながりを思い出していきたいと思います。
・とても貴重なお話しありがとうございました。自分に向き合うヒントがたくさんありました。
・大切にしていることを共有できる時間でした。豊かでした。ありがとう。
・人生の生き方にも通じるお話しでした。ありがとうございます。
・つい先日まで航海されていた人からの海に関するお話はとても貴重でした。雲への見方が変わりそうですね。
・空も大気もすべて海だったという言葉が印象的でした。ふだんの生活と、海とのつながりを考えて生活しようと思った。

文:斯波まりか
写真:高村瑞穂