調理法によって“表情が変わる魚、鯛
[愛媛県 西予市]
2022.03.06 UP
時代や環境によって、人々の心に響く音楽は多種多様。音楽に元気づけられたり、勇気をもらったり、あるいは、何かに気づかせてもらったり。かつて聴きなじんだ楽曲に遭遇するときに思うことも人それぞれ。『およげ!たいやきくん』は1970年代後半に大ヒットした楽曲だ。「たいやきくん」は、鮮魚の鯛についてを知ることの入り口になっている。
ものがたり
「まいにち まいにち ぼくらは てっぱんの~」という歌詞で始まる『およげ!たいやきくん』は、1975年にフジテレビの子ども向け番組『ひらけ!ポンキッキ』で放映されたのをきっかけに、レコードが発売され、現在でも、日本におけるシングル盤レコード売り上げ1位を誇っている。
鉄板の上で焼かれている“たいやきくん”は、ある日、店のおじさんとけんかをして海に逃げ、広い海を泳ぎ、難破船をすみかにするものの、サメにいじめられることも経験する。やがて、お腹がすいて釣り針に食いついてしまい、最後は見知らぬおじさんに食べられてしまうというストーリー。
作詞家で絵本作家の高田ひろおさんによるこの歌詩は、子どもたちに冒険心を伝えたいという思いから生まれたそうだ。自由に海を泳ぎ、海の生物とのふれあいを楽しんで、元の居場所にもどるという物語は、子どもたちには、その言葉通り純粋に届いていたのだろう。“たいやきくん”と友だちになって、一緒に海で泳ぐことを夢見ていたかもしれない。
爆発的にレコードが売れたのは、その歌詞が周りの大人にも響いたということ。1970年代の日本を振り返ると、日本万国博覧会EXPO’70の開催、戦後2回目のベビーブーム(1971-1974)、マクドナルド1号店が東京・銀座にオープン、中国からパンダが寄贈され(1972)、ハローキティが誕生(1974)するいっぽうで、2度のオイルショック、ロッキード事件が政財界を揺るがし、経済成長率が低下し、消費者物価が上がるなど、穏やかではない時代だ。そんな中で、企業の歯車として毎日朝から晩まで働く多くのサラリーマンが、毎日鉄板の上で焼かれる“たいやきくん”に親近感を覚えたり、悲哀のこもった人生を投影させたのだとか。いや、焼かれているのではなく、気持ちよく海の底を泳いでいる“たいやきくん”に希望を見いだしていたのだと思いたい。海にはそれだけの力がある。
写真:高村瑞穂